だが、「受動喫煙による健康リスクは科学的に明確になっている。命の問題に“落としどころ”などあってはならない」と、日本対がん協会の望月友美子参事は法案の骨抜きを強く指摘する。

 「規制一辺倒にすると、屋外などで勝手に吸う人が無秩序に増えかねない。ある程度喫煙できる場所を残すことが、“望まない受動喫煙”の防止には必要だ」(岩屋毅衆議院議員)という意見ももちろんある。

 しかし、それはあくまで喫煙者のモラルの問題だ。少なくとも、東京五輪に向け国際的にも屋内禁煙の強化が要請される中、特にリスクが明確になっている紙巻きたばこについて例外を残すことは、規制としては不十分だと言わざるを得ないだろう。

 規制議論では、加熱式たばこの扱いも焦点となった。

 改正案では、加熱式たばこは紙巻きたばこに比べて有害物質は少ないものの、健康への影響は明らかになっていないとして、紙巻きたばことは区別した上で、規制の対象となった。

 メーカー幹部は、「紙巻きたばこと区別されたのはいいが、加熱式たばこの受動喫煙のリスクは少ないのに“疑わしきは罰する”で規制された」と不満をあらわにする。

 規制の根拠として厚労省が委託して行った試験は、試験の条件に問題があるのではないかという報道も複数あり、「規制ありきだったのは明白」(同)というのだ。

加熱式の扱いにメーカーは不満
健康への影響は不明

 加熱式たばこの主流煙に有害物質が含まれているのは事実として、受動喫煙で害になる、つまり、空間中に拡散する有害物質が周囲の人間に影響を及ぼすかどうかは議論が分かれるところだ。

 産業医科大学の大和浩教授は、「有害物質の量は健康リスクと比例しない。少量の曝露でも、十分健康リスクに影響を与えるのがたばこの特徴」と言い、加熱式たばこも含めた規制の必要性を訴える。

 健康リスクとの関連性はいまだ証明の途上にあるのが実情だ。実際の健康への影響が分かるには何十年もかかるし、紙巻きたばことの併用者が多く、加熱式たばこ単体の影響を調査するにはハードルがあるという指摘もある。

 そもそも、主流煙に含まれている有害物質の割合も、研究によってばらつきがある(下図参照)。メーカーの研究だけではなく、第三者による客観的な調査と積極的な情報開示が今後さらに求められよう。