日々膨大な仕事をこなす一流のクリエイターは、どのように仕事を進めているのでしょうか?
くまモン、相鉄、Oisixなど、多くのプロジェクトを手がけるクリエイティブディレクター・水野学氏。水野氏が大切にする仕事の基本は、意外にも「段取り」とのこと。仕事を効率的かつ高いクオリティでやり遂げるためには、「段取り」が欠かせないといいます。チームで仕事を進める際に、立場や思惑の違う人たちがひとつの方向に進むために大切なものについてお伝えします。
これからの仕事の基本である、「段取り」の秘密を全公開したのが『いちばん大切なのに誰も教えてくれない段取りの教科書』(ダイヤモンド社)。この連載では本書から一部を抜粋・再編集し特別公開します。<構成:須崎千春(WORDS)、編集部>
「わかりやすい言葉」があるだけで、
チーム全体がブレない
ほとんどの仕事はひとりでは完結しません。たとえば編集者だったら、著者がいて、印刷屋さんもいて、デザイナーさんもいて、編集長もいて、いろんな人とチームをつくって仕事をしています。
なので、チームで動くときには「何をするか」ということを共有しなくてはいけません。
段取りはもちろん大事ですが、それ以前に、目的を共有し、同じ方向を向くことが大切です。
(段取りの重要性については、第1回を参照ください)
そのためにぼくらは「コンセプト」をプロジェクトごとに決めています。
みんなが共有できる「わかりやすい言葉」を用意するのです。
「目的をひとことであらわすような言葉」があれば、迷ったときに原点に立ち返れます。
チームのメンバーはみんなそれぞれの立場があります。お金担当の人は「できるだけコストを下げたい」と思うでしょうし、スケジュールを管理する人は「できるだけ納期を守りたい」と思っているでしょう。
それぞれの思惑がうごめいているわけです。その誰かひとりの思惑を優先してしまうと、やっぱりチームとしての仕事はうまくいきません。
なので、チーム全員が、それぞれの思惑を超えて、ひとつの方向に進むためにもコンセプトは必要なのです。
たとえば、相鉄のプロジェクトでは「安全×安心×エレガント」というコンセプトを共有しました。 このわかりやすい言葉があるだけで、 「いくらスタイリッシュであっても、安全、安心でなければいけない」 「安全、安心を追求するあまり、エレガントを忘れてはいけない」
といった具合に、ブレずに仕事を進めていけるのです。
そして、チーム全員が「このプロジェクトは○○である」と言える状態にすることが理想です。こうしたコンセプトはいわば「警察」の役目を果たします。取り締まってくれる存在なのです。
仕事が進んでいくと、打ち合わせのときに「これは赤のほうが(好みの色だから)いいんじゃないか?」などと、偉い人や、声の大きい人が言う場面に遭遇します。
ここでコンセプトがあれば「この事業はエレガントがテーマです。赤がいいというのはあなたの感覚ですよね?」という話ができる。
「コンセプトは『安全×安心×エレガント』と決まっているんです。これでOKが出ているんです。だから赤が好きかどうかではなくて、エレガントかどうか? 安心か、安全かということを判断しているんです」と。
「コンセプトを決める」だけではなく「コンセプトに立ち返る」ことはさらに重要です。
ことあるごとにぼくは「これは、安全×安心×エレガントですか?」とチームに問いかけるようにしています。