上司の木下係長は驚いた。彼が実家暮らしをしていることは知っていたが、なぜ母親が電話してきたのだろうか……。

「きっと本人が電話できない事情があるのだ。事故やケガで入院したのかもしれない。あるいは電話口に出られないような大病なのかもしれない……」

 そんな心配が脳裏をよぎった。ところが、母親は単に具合が悪いだけだと言う。木下係長は釈然としなかったが、強い口調で話す母親に、それ以上のことは聞けなかった。

エスカレートするモンママの攻撃に
上司の体調は次第に悪化する

 翌日、山田さんは出社した。

「大丈夫か?」と聞いても「大丈夫です」としか答えず、彼はその日定時で帰った。

 その後、彼は体調不良で休むことが増えていった。少なくとも週に1日は休むようになり、多い時は週に3日休んだこともあった。
 
 彼が休めば、係長が2人分の仕事を1人でやらなければならない。取引先を回り、会社に戻って資料をまとめる。会議に出て、また取引先のところへ出かける。終電まで働く日が増え、疲労が蓄積していった。

 一方、山田さんの母親からの電話が頻繁にかかってくるようになり、「息子の残業が多い」「体調が悪いのに働かせすぎではないか」といった抗議の内容が多く、母親の口調はだんだんきつくなっていた。

「最初は何が起きているのかわからなかった」と、木下係長は言う。母親の抗議に対して、木下係長は私に部下の勤務状況を打ち明けた。

「山田さんの母親は残業が多いと言いますが、実際には1時間くらい残業する日がたまにある程度で、定時で帰ることの方が多い。本人の体調不良も考慮し、極力早く帰そうとしていたくらいです」

 ところが母親の電話攻撃は止まらない。彼に仕事を任せると「押し付けている」と言われる。大変だと思って手伝おうとすると「息子をバカにしている」「能力を見る目がない」と言われるのだった。

 何とか部下との距離を縮めようと、木下係長は彼を飲みに誘ったこともあった。しかし、体調が良くないと断られた上、翌日に母親から案の定電話があり「パワハラだ」と言われたという。

 どう対処したらいいのかわからなくなり、この頃から木下さんは体調を崩すようになっていった。終電まで働く日が増えていたこともあって、体力的にも精神的にも限界だったのだろう。友人の紹介で私のカウンセラーのことを知り、相談に来たのである。