行き過ぎた残業による過労死の問題がクローズアップされているが、残業時間そのものだけを考えても解決にはならない。むしろ、人間関係などから生み出されるストレスこそが、人の心身を蝕むからだ。こうしたストレスに対して、どう立ち向かえば良いのだろうか?(モナッシュ大学マレーシア校 スクールオブビジネス ニューロビジネス分野准教授 渡部 幹)
ストレス解消法だけでは
その場しのぎでしかない
昨年の電通女性社員自殺以降、職場の残業やストレスについての関心が高まっている。特にサービス残業を含む労働時間の多さが話題になっており、法に定められた就労時間をあまりに悪質に逸脱している企業が指摘される一方で、法が現在の働き方にそぐわないとする主張もみられる。
だが心理学的な側面でいえば、残業時間そのものよりも、残業によって生じる様々なストレスこそが問題なのだと、筆者は考える。仕事が面白く、残業代も支払われ、残業による弊害(健康や家族への影響)があまりない人ならば、残業があってもそれほど苦にならないだろう。問題は、常軌を逸した残業時間、お金にならないサービス残業、残業による健康被害や家族関係、対人関係への悪影響などが生み出すストレスにある。
そして、仕事上のストレスを生み出すのは、残業だけではない。それを強いる上司、職場での人間関係なども主な原因だ。
最近の関心の高まりとともに、マスコミはストレスにどう対処するかについて、多くの情報を提供している。だが、筆者は現在の状況に少し疑問を持っている。それは、それらの情報のほとんどが「問題の解決をしないまま、ストレスを低減する方法」を示すだけで終わっているからだ。
例えば、先日このコラムでも紹介したマインドフルネスアプローチ(記事はこちら)は、ヨガや禅の考えを取り入れた実践的プログラムによって、ストレスを低減し、強いメンタルを作り、創造性を伸ばすとされている。そしてこの効果も、脳科学の研究により徐々に証明されてきている。
だが、肝心のストレス原因については、全く未解決なのだ。もちろんマインドフルネスに効果があることには筆者も異存はない。したがって、実践すべきとは思っている。だが、同時にストレス原因をきちんと探るアプローチもしないと、単なるストレス解消だけでは、その場しのぎになってしまう。