右肩上がりの時代だからこそ通用した、「我慢して頑張れば報われる」という価値観は、頑張っても報われそうにない今の若者にはもはや通用しない。にもかかわらず、この古い理論を、相も変わらず振りかざすオッサン世代が後を絶たない。(ノンフィクションライター 窪田順生)

職人の徒弟制はブラック!?
洋菓子店オーナーの言い分

徒弟制は明らかに時代錯誤です
サラリーマン社会にもはびこる「新人のうちは会社にすべてを捧げろ」というような徒弟制的考え方。これは明らかに時代錯誤だ Photo:PIXTA

 先日、日本の行く末を考える上で、非常に重要な記事を読んだ。西日本新聞の『職人の働き方改革は…徒弟制はブラック? 「常に長時間拘束」「若手育てるため」 労働と修業の境目あいまい』(8月28日)である。

 同社の特命取材班のもとに、福岡市内の有名洋菓子店の関係者から、仕込み作業や菓子作りのためという名目で、パティシエらの長時間労働が常態化しているという情報が寄せられた。月の残業は過労死ラインの80時間を大きく超えて130時間で、残業代はきちんと支払われていないという。

 労働基準監督署の調査前、オーナーが「(1日)8時間、週休2日なら会社は立ち行かん。仕事を早く覚えたいからやっていると説明するから、そのつもりにしといて」とパティシエらに「口裏合わせ」を要求した音源もあるというので、なし崩し的に常態化してしまった訳ではなく、ハナから法令を守るつもりがないのだ。

 そこで取材班がオーナーを直撃したところ、長時間労働をさせている事実を認めたうえで、こんな風におっしゃったという。

「昔の修業はもっと大変だった。早く家に帰りたいなら、パティシエを目指さなければいい」

 記事によれば、このオーナーは駆け出し時代に海外で修業をしていた。そこでは一人前のパティシエになるのは、朝から晩まで修業するのが当たり前だったということで、「弟子」たちにも同じことを強いているという。また、残業代を払わないのは、これはあくまで彼らが一人前になるための修業であって、そこにいちいち賃金を払っていたら、店の経営が立ち行かなくなってしまうということらしい。

 この話を聞いて、皆さんはどう思われただろう。もしかしたら、長時間労働とか残業代未払いは褒められた話ではないけれど、このオーナーの気持ちは痛いほどよくわかる、という方も多いのではないだろうか。

 実際、ネット上の反応を見てみると、「残業代くれなんて甘いことを抜かす奴は職人を目指すな」「こんな有様では日本の職人のレベルは落ちていく一方だな」などと、オーナーを擁護する声もチラホラ目立っている。