人を動かす術を学ぶには、オーケストラの指揮者やサッカーの監督に学ぶべき、という田端信太郎さん(ZOZOコミュニケーションデザイン室長)。書籍『マーケティングの仕事と年収のリアル』を上梓した山口義宏さん(ブランド・マーケティングの戦略コンサルティング会社インサイトフォース代表)が、これまでリクルートのフリーマガジン『R25』発刊に始まり、livedoorやLINEなどで圧倒的な成果を出し続けてきた田端さんに、キャリア構築のポイントやZOZOでの新たなミッションなどを聞いていきます。(撮影:疋田千里)

「あれをやったのは僕です」と言える仕事をやりたい

山口義宏さん(以下、山口) 田端さん自身のキャリアを振り返ったときに、後づけでもいいんですが意思決定のポイントはどこにあったと思いますか。

田端信太郎(たばた・しんたろう)
株式会社ZOZOコミュニケーションデザイン室長
1975年石川県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。NTTデータを経てリクルートへ。フリーマガジン「R25」を立ち上げる。2005年、ライブドア入社、livedoorニュースを統括。2010年からコンデナスト・デジタルでVOGUE、GQ JAPAN、WIREDなどのWebサイトとデジタルマガジンの収益化を推進。2012年NHN Japan(現LINE)執行役員に就任。その後、上級執行役員として法人ビジネスを担当し、2018年2月末に同社を退社、2018年7月より現任。著書に『ブランド人になれ!会社の奴隷解放宣言』(幻冬舎)など。

田端信太郎さん(以下、田端) うまくいってもいかなくても、「あれをやったのは僕です」と誇らしく思える仕事をしたいと思っていたので、リクルート在籍時の立ち上げたフリーマガジン『R25』はそのひとつでしたね。仮にうまくいかなくて会社をクビになっても、「あれやったのは君か、ナイストライだったね」と世の中に共感してくれるような仕事をやりたいなと思っていました。
 世の中の5割がぼんやり支持するより、1割でいいから狭く深く刺さるような仕事ができればいい。いくらソーシャルメディアや便利なプラットフォームができて、これからは個人の時代だとか言っても、結局トラックレコードなり、品質保証なり、看板になるような実績がない人間がいきなりマーケットにさらされたら、会社で冷や飯を食う以上に悲惨なことになるはずです。

山口 ビッグチャレンジをすることに意味がある、ということですか。

田端 ブランドマネージャーだろうが営業だろうが、当事者意識を持って取り組むってことです。製造に問題があれば工場に文句を言いに行ったり、店頭でそんなセールストークじゃ困ると指導したり……何かの専門家だから、それ以外に関して自分は関係ありません、という態度じゃいかんということです。少なくとも、それを口に出したらダメです。

山口 それだと、ステージ3(特定領域のスペシャリスト。著書『マーケティングの仕事と年収のリアル』で示しているマーケターの6つの成長段階のうちのステージ3)どまりだ、と。だから、田端さんのアイデンティティもスペシャリストじゃないってことですね。

田端 そういう意味ではそうですね。僕がもし何のスペシャリストと呼ばれたいかと言えば、メディアや新規事業立ち上げのスペシャリストです。そのメディアを広告主にどう見せるか、読者にどう見せるか、というのは大事なポイントですが、結局儲かっているのかも含めた全体最適を見なきゃいけない。

山口 収益責任を負った立場ということですね。

戦略フレームワークはプロトコルでしかない

田端 自分の専門外、経験外のことにも意見をしながら、組織全体を一つの方向に引っ張る、という立場で何が大事になるのか? その示唆を得るには、たとえば有名なオーケストラの指揮者や、サッカーの代表監督、建築家――そういう人たちがどうやって人を束ねているのか聞いてみたいですね。みんな自分が一番上手い!と思ってるような演奏家やスポーツ選手は、きっと「なんであなたの言うことなんか聞かないといけないの」って感じでしょうから、演奏会や試合の前から人間と人間のぶつかり合いが始まるんだと思うんです。それをいろんな角度からねじ伏せたり褒めそやしたり、あの手この手でまとめ上げてるんだろうな、と。日本企業では、そのあたりの根回しや、政治みたいなことは純然たるマーケターより営業マン上がりのほうが得意なんです、たぶん。

山口 義宏 (やまぐち・よしひろ)
インサイトフォース代表取締役
東京都生まれ。東証一部上場メーカー子会社で戦略コンサルティング事業の事業部長、東証一部上場コンサルティング会社でブランドコンサルティングのデリバリー統括などを経て、2010年にブランド・マーケティング領域支援に特化した戦略コンサルティングファームのインサイトフォース設立。大手企業を中心にこれまで100社以上の戦略コンサルティングに従事している。著書に『マーケティングの仕事と年収のリアル』(ダイヤモンド社)、『デジタル時代の基礎知識『ブランディング』「顧客体験」で差がつく時代の新しいルール』(翔泳社)など。

山口 人を動かすのがアートだとすると、アートに長けた人が後からスキルを学習していくのは割とスムーズだけど、スキル偏重だった人が後からそういうアートを身につけるのは難しいですよね。

田端 僕も若いうちは理屈っぽい戦略フレームワークやアカデミックな話が好きでしたよ。そちらのほうがまとまった本もあるし、勉強しやすいじゃないですか。でも、そういうのを紙に書いて営業の現場でぶつけても、「これで結局いくら儲かるの」って話になりますしね。そういう形式知的な戦略フレームワーク、はあくまで会話のプロトコルだったり、共通言語でしかないですよね。

山口 たしかに、ステージ4(マーケティング施策の統合者。ブランドマネジャーの役割)以上になったときに知っていたほうが便利ですが、フレームワーク知識の収集マニアになるのは懐疑的です。僕らみたいなコンサル側が、新しいフレームワークがすごい成果につながる道具という売り方で幻想をふりまきがちですが、現実は理解と説明の道具という側面が強い。
 僕はスペシャリスト志向の人が特定の専門領域を究めるというのも、それぞれ深い世界だから否定はしないですけどね。中途半端なCFO(最高財務責任者)になるよりステージ3(特定領域のスペシャリスト)を究めて独立したクリエイターのほうがよほど稼げたりしますから。ただ、基本的にステージ4(ブランドマネージャー)~ステージ6(経営者)のロールモデルがいなくて見通しづらいから、ステージ3にいる人がスペシャリストを究める以外に選択肢がみえないことに問題を感じています。

田端 ステージ4(ブランドマネージャー)以上になると、たしかに活躍している人はいるけど、あまり再現性のあるキャリアって感じがしないですよね。

山口 大学出てすぐの頃から「僕は20年後にこうなりたい」なんて人はほとんどいないし、あまり早くからこれ以外に道はないと思いこんだりするのもよくないと思うんです。ただ、マーケターとして3年、5年とやってくれば、自分の得手不得手もわかってくるし、向いていないと思う人は早めに方向転換したほうがいい。マーケティングって絶対的な正解がないから、答えがはっきりしていない状況に耐えられない優等生タイプには向いていないんです。

田端 正解がないストレスに耐えられない。

山口 正解がない世界には弱いけど、学力は優秀で、処理能力も高く、大企業の根回しみたいなことは得意だという人は結構いて、そういう人はアラサ―前後でとっとと先行きを決めたほうが幸せなんですよね。タイミングを逃したまま、向いてないと思いながらマーケターとして40歳ぐらいになると、もはやキャリアは八方塞がりになりかねない。