「仕事の面白さを重視しているので、お金にはさほど関心はないんです」--これは、どんな業種・職種であれ、若い方に定番のリアクションでしょう。たしかに、新卒で働き始めてから2~3年程度は、目先のお金の事は考えすぎずに仕事に専念するスタンスが重要です。しかし、20代半ばを超えても、自分のキャリアやお金のことを考えないままでいると、大きな機会ロスをする恐れがあり、ギアチェンジが必要です。マーケティング職としてステップアップしていく道筋のそのポイントをまとめた新刊『マーケティングの仕事と年収のリアル』から、マーケティング職の方はもちろん、より広い職種の方にも通じるテーマや関連する対談を本連載で紹介していきます。

目指すゴール&年収目標は?

「マーケティング職として、あなたのキャリアのゴールは何ですか?」

マーケターとして、年収1000万円を超える人、超えない人の違いとは?キャリアのゴール、考えてる?

 何とも答えにくい質問です。働いた経験がある方はお察しの通り、年齢を重ね、スキルや立場が上がって初めて見えてくる景色もあるからです。しかも、環境変化は激しくなるばかり。数十年先のゴールを現時点で決めるのは、そもそも無理があります。

 ただし、誰もが無関心でいられないのが「収入」ではないでしょうか。

 「自分は仕事の面白さを重視しているので、あまりお金に関心がないんです」

 これは、若い方と話していると出てくる、定番のリアクションです。

 しかし、ライフステージが上がり生活スタイルが変化するにつれ、「こんなはずではなかった」と後悔する場合が多いものです。結婚する、子供ができる、お金のかかる趣味ができる、年齢を重ねて老後のファイナンスプランを試算してみる--そんなタイミングで急に焦り出す人が沢山います。評価とお金は「人生の自由度を高める資本」ですから、あって困るものではありません。

 十分な年収のゴールは、個々人の価値観とライフプランによって大きく異なるはずです。ちなみに内閣府が「平成23年度国民生活選好度調査」をもとに作成した統計データによると、年収と幸福度が比例して上昇するのは世帯年収1000万~1200万円程度までで、それ以上は年収が増えても幸福度は高まらなくなります。よって、新刊『マーケティングの仕事と年収のリアル』では便宜的に「年収1000万円」を最初の目標のメドにして話を進めます。

 マーケティング業界における年収1000万円という水準は、ほんのひと握りの会社--たとえば電通や博報堂のような一部の大手広告代理店や、事業会社でも一部の外資グローバル企業であれば、早ければ30歳前後で到達します。

 しかし、それ以外の企業では、決して全員がたどり着ける数値ではありません。稀少なスキルをもつスペシャリストや、事業数値に責任をもつ部長クラス以上でなければ到達できない会社が大半です。この点は、ほかの多くの業界と同じでしょう。ベンチャーであれば若手が経営層に抜擢され若くして高年収に到達することもあれば、大手事業会社で長く勤め年功序列の人事評価に即して50歳前後で年収1000万円に到達するというシナリオもあります。

 つまり、「1000万円」は誰もが到達できる年収ではありませんが、優れた才覚がある人が、戦略的に考えてキャリアをつくっていけば実現不可能でもない--そんな数字です。ちなみに国税庁の平成28年分の「民間給与実態統計調査」の調査結果報告(平成29年9月)によると、全給与所得者のうち個人年収1000万円超は4.2%と、マーケティング業界に限らず、ごく一部の人たちが実現している数字といえます。そこにたどり着くには純粋な能力差だけでなく、一定の運や、時にはリスクテイクも必要なのです。

 私が新著『マーケティングの仕事と年収のリアル』を書き始めた動機のひとつに、非常に高い才能やまじめに努力する習慣をもちながら、年収が500万~600万円で頭打ちになり悩んでいる人が多いことがありました。その年収が高いか低いかはさておき、彼らが比較的若いうちから、自分のキャリアをどう築くかという視点をもってさえいれば結果は違った、と思うのです。彼らのうち何割かは、ほかの業界や会社に行けば年収を伸ばせた可能性があります。同時に、マーケティングの仕事が好きで才能がありながらも、収入が伸びないために諦めて他業種に転職する人も沢山います。これは、業界として大いなる損失です。

 ですから今回の著書では、読者のみなさんがマーケティング職としてめざす姿と報酬を早期にイメージできて、キャリア構築に役立ちそうな視点を提示していきます。ひとくちにマーケティングといっても、どのようなキャリアの選択肢(就職する業態の種類や、それぞれの報酬面を含めた特徴)があり、各成長ステージでどのようなスキルが必要なのか。ステージアップの分岐点はどのようなときに訪れるのか。それらを具体的に解説していますので、本連載でその一部を紹介していきます。

山口 義宏 (やまぐち よしひろ)
東京都生まれ。東証一部上場メーカー子会社で戦略コンサルティング事業の事業部長、東証一部上場コンサルティング会社でブランドコンサルティングのデリバリー統括などを経て、2010年にブランド・マーケティング領域支援に特化した戦略コンサルティングファームのインサイトフォース設立。大手企業を中心にこれまで100社以上の戦略コンサルティングに従事している。著書に『デジタル時代の『ブランディング』 「顧客体験」で差がつく時代の新しいルール』(翔泳社)など。