初めてバイサイドに移ってやってみたいこと

山口 田端さんはマーケティングのキャリアを作ろうとしてきたわけではなく、新しいことをやろうと取り組んできた結果、今があるわけですよね。今回、ファッション通販サイト「ZOZOTOWN」を運営するZOZO(旧スタートトゥデイ)に移られた理由というのは?

正解がないストレスに耐えられない人は、アラサ―でマーケティング業界から出るべき広告のバイサイドのマーケターのレベルを上げられないか、という田端さん

田端 僕がこれまでやってきたのは基本的には広告営業ですよね。それもセルサイドにいた。直近だとLINEというプラットフォーマー側にいて、さまざまな業種のクライアントとのお付き合いもあって面白かったのですが、いろいろ提案したところで「わかりました、持ち帰って検討します」と言われた後の決定プロセスには当事者能力をもてない。もちろん私の立場で、変に当事者意識をもってもいけないんですけどね、たとえばトヨタに肩入れしたら、ほかの日産やホンダにとってどうだという話になりますし。

山口 それはそうですね。

田端 ただ、これだけウェブでできることが増えてコミュニケーション手段も広がってきた中で、テレビのキー局や全国紙の力を借りなくてもマーケティングできる選択肢がいろいろあるのに、それを活用できるかはバイサイドの事業会社にイケてる担当者がいるかどうかにかかってしまっているんです。もちろん、新しいコミュニケーション施策を試さない理由というのは、単にその会社の頭が硬いというだけじゃなく、できない理由もそれなりにあるわけですけど。もう少しバイサイドのマーケターのレベルを上げられないかという思いがあったのはたしかですね。

山口 そうか、田端さんの広告営業を中心としたキャリアにおいては、初めてのバイサイドになるわけで、セルサイドにいてできなかったことにトライされるわけですね。

田端 そうです。たとえば、LINEの広告投資に対してどのぐらい効果があがっているか、役立てられているか、というところは、究極的に言えば、先方の責任者が決裁印を押して発注したわけだから、先方に一義的に責任があるわけじゃないですか。でも、中には月額数百万円も支払って公式アカウントのサービスを買っていながら、全然活用できていないクライアントもいるわけです。僕はそれに気づいた当初、すでに解約されているけど大口顧客だったから弊社側の担当者が報告しづらくて黙ってるんだな、と社内不正を疑ったわけです。でも経理に確認すると、きちんと入金されていて、契約も継続されている。これはおかしいと思って先方に確認すると、単に先方の担当者が忙しくて活用できていなかった、でもきちんとお金は払ってますから、ということだったんです。

正解がないストレスに耐えられない人は、アラサ―でマーケティング業界から出るべき大手企業のウェブマーケティングは適任者がいなくてダメな会社と、機能をチームで担う会社に大別される、と山口さん

山口 単に、クライアント側が忙しくて使えていなかったというだけなんですね。

田端 僕、すごく複雑な気持ちになっちゃって。そこから先、どこまでお節介を焼いてあげるべきか、ということですよ。短期的には「手間もかからず、面倒くさいことは言わず、黙ってお金だけ払ってくれる上客」と言えるかもしれないけど、そのクライアントだって担当者が変わったり何かのタイミングで、メディアごとの投資対効果を調べてみよう、となるかもしれません。そうしたら、弊社のサービスは良いも悪いも、とにかく使われてないわけだから効果がない、という悪い結果が出るじゃないですか。担当者も「ついうっかり」と自己申告はしないはずでしょ。すると、連帯責任として弊社のサービスがイケてない、と結論づけられる。それ結局は、クライアントサイドの人事組織の問題で、適任者がいないということなのに……。まあ、一朝一夕に人材は育成はできないというんだけど、そんなこと言ってたら100年経っても変わりませんからね。中途採用に流動性もなく、新卒一括採用でゼネラリストしかいない日本の大企業の闇は深いなと思いましたね

山口 大手企業のウェブマーケティングは、適任者がいなくて本当にダメな会社と、その機能をチームで担っている会社とに大別されますよね。

田端 各事業部があって、それを横串で見ているCMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)のような立場の人がいたりするわけですけど、結局のところ事業部長がへそを曲げて、「そんな横やりが入るなら俺はPL責任を持てないよ!」とか言い訳にされだしたら、CMOも機能しなくなるわけです。突き詰めるとそこには、理屈やデータを超えて「あの人が言うんだったら、もうしょうがねえな」とみんなが従わざるを得ないようなCMOの存在感が必要ですよね。

山口 だから、業界で名が通っているCMOというのは顔が怖いんです(笑)。それは冗談としても、やっぱり肩書だけじゃなくて人間的な重みが必要なんですよね。「あいつの言うことを無視したらやべえな」という迫力がないと、利害調整を伴う意思決定をやりきれない。仮にオーナー企業であれば、創業家が出てきて決定をくだすのでシンプルですけど。田端さんが今度コミュニケーションデザイン室長になったZOZOもオーナー企業ですね。どういうスコープでお仕事をされるんですか。

田端 本質的には、前澤(友作社長)さんに対して、いつクビになってもいい覚悟で直言する係ですね。

山口 話題も多い会社ですし、益々の活躍、期待しています! 今日はありがとうございました。