日系造船が仕事を奪われる危機

 実は三井E&S造船のこの決断、日本の造船業界をざわつかせている。常石造船には提携交渉時に説明済みだったから問題は生じなかったが、ある造船関係者によると、建造量日本一を誇るオーナー系の今治造船の関係者などが不満を漏らしているという。

 というのも、合弁設立に三井物産がかんでいるからだ。出資企業の一社として名を連ねる上、営業まで担う。

 市況の浮き沈みが激しい造船業界では、不況の際にいかに受注を確保できるかが収益安定化のカギを握る。例えば川崎重工業は同じく中国に造船合弁会社を持つが、その合弁相手は大手海運会社だ。そのため、「いつでも、ある程度安定した受注が確保できることが強み」(川重幹部)となっている。

 三井E&S造船にとって船の発注の仲介に長けた商社という後ろ盾は大きいが、三井物産と取引のある日系造船会社にとっては脅威である。三井物産は「うちの仲介先が今回の合弁会社に限られるわけではないし、業界からもそう受け止められている」とするものの、営業力、技術力、価格力の三拍子がそろう合弁会社に仕事を奪われる恐れは否めない。

 三井E&S造船にしても、今後、業界から嫌味を言われかねない状況だ。今、日本勢は無茶な安値攻勢を仕掛けてくる中韓勢に適正な競争を促している。その旗振り役である日本造船工業会の会長を担っているのが何を隠そう、加藤泰彦・三井E&SHD相談役なのだ。

 これら波紋が生じる可能性を心得つつ、なお踏み出した一歩に三井E&S造船の危機感が表れる。今年4月に三井E&SHDが誕生。造船の事業会社として独立し、他部門への依存が許されなくなった同社は、いよいよ“強硬”な生き残り策を講じ始めている。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 新井美江子)