行政機関が42年間にもわたって障害者雇用の水増しをしていたことが発覚した。数値目標達成のために、苦しい中で努力してきた民間企業からすれば腹立たしい事件だが、今後、行政の水増し是正のためのアクションが、「障害者雇用の青田買い」を加速させ、民間企業はさらに苦しむと予想されている。(ジャーナリスト 草薙厚子)
行政機関で水増しが横行!
障害者雇用のひどい現場
「ひどい話なのですが、まぁそんなものかなって思いました。働いている側の感じからすると、障害者雇用に対しての下地がないので、やりそうだよねっていうことです」
ある行政機関で働く身体障害者の職員A氏は、こう言い放った。これまで行政側が民間企業に指導してきた「障害者雇用促進法」だが、今年8月、中央省庁全体、33の行政機関中の27機関で、合わせて3460人に上る障害者雇用の水増しがあったことが発覚した。水増しは実に42年間にもわたっていたことも明らかになった。
A氏は行政の水増しの理由を、こう推測する。「障害者を雇いたくないという単純な理由だけではないと思います。自分たちも受けた難しい試験を受けることなく、障害者雇用枠で入る人を増やしたりしたくないんだろうなと思います」
元々、障害者雇用の歴史は、戦争の中で負傷した人に対しての恩給という所得保障から始まっている。その恩給は第二次大戦後に停止された。国だけで負傷者を支えることが難しくなったのだ。そこで、民間企業も力を合わせて、負傷した人たちが働く場を作らなければならなくなった。そこで採用したのがフランス・ドイツ型の、企業に障害者雇用を割り当てる「雇用率制度」である。
1960年の「身体障害者雇用促進法」から始まったのだが、当初は努力義務として雇用率が設定された。民間企業は、工場などの現場的事務所が1.1%、事務的事業所は1.5%。官公庁は、郵便・国有林野・印刷・造幣の4事業は1.4%、管理・事務部門などの非現業的事業所が1.5%である。
その後、数年ごとに改正され、1998年7月、知的障害者を雇用義務の対象に追加した際、民間企業は1.8%、国や地方公共団体は2.1%に引き上げられた。そして2013年4月には民間企業が2.0%、国や地方公共団体等は2.3%と、結果として10年以上の間隔をおいて徐々に引き上げられていく。
2018年4月からは、精神障害者の雇用の義務化と同時に、民間企業は2.2%、官公庁は2.5%となった。前回の改正からはまだ5年しか経過していない。そして2022年度末には、民間企業は2.3%、国や地方公共団体は2.6%に上がる予定だ。近年の雇用率引き上げのハイペースに関しては、現実的には無理があるのではないかという声が民間企業から上がっている。