まだまだ社会の理解が足りない状況のまま、職場でトラブルの種となってしまっているケースも多いと思われる発達障害者。この春からは、一定規模以上の企業に対して、精神障害者の雇用義務づけもスタートした。「発達障害の人と共に働く」とは一体、どのような体験なのだろうか?発達障害の部下のみならず、発達障害の上司も経験したことのある人に話を聞いた。(ジャーナリスト 草薙厚子)

「見えない発達障害」の部下に悩んだ
エンタメ業界管理職の試行錯誤

発達障害者と共に働くことの苦悩とは?
「これぐらい普通はできる」という考え方は禁物。一緒に働く人たちも発達障害の特性を理解しておかないと、思わぬトラブルが生じてしまう Photo:PIXTA

 今年4月から、従業員数が一定数以上の規模の事業主に対する、身体障害者・知的障害者・精神障害者の「雇用義務化」が始まった。法定雇用率が2.2%以上になるのであれば、身体障害者、知的障害者、精神障害者の内訳は問われず、手帳を持っている人はすべて対象になる。この精神障害者の中には、発達障害者も含まれる。

 発達障害には大きく分けて3つの種類がある。「自閉症スペクトラム障害」(ASD)、「注意欠陥多動性障害」(ADHD)、「学習障害」(LD)である。複数の障害を併せ持っている人もいる。発達障害自体への理解がまだ進んでいないこともあり、雇用の現場ではしばしば大きな火種になっている。
 
 今回は、上司にも部下にも発達障害者を経験したことのある、某エンターテインメント企業の管理職A氏に話を聞いた。

 多種多様で、個性的な人が集まっているエンタメ業界。仕事柄、外に出て人と接する機会が多いが、必ずしも一般企業の営業職のようなスキルが要求されるわけではないため、発達障害の特性が、一種の「個性」となり、「面白いヤツ」「変わったヤツ」と見られる空気もある。そのため、問題を起こさない限り、顕在化するケースは少なく、「見えない発達障害」が多いという声も聞かれる。しかし、裏では管理する側の苦労はかなり大きいという。

「とにかくプロジェクト会議でも発言が彼の順番になると、自分の意見を言わないんです。必ず隣の人が言った意見を繰り返したりして、お茶を濁すんですよね。反対意見や、自分独自の意見を言わないから毎回不思議に思っていたのです。エンタメ業界なので、なるべく意外性のある意見や、独特の視点からの意見が求められるのですが、そういったことは一切なかったです。その後、他の人から聞いて驚いたのは、私がいないところでは私のジェスチャーや言動のモノマネをしていたらしいんです。それがあまりに面白がられたため、周りは彼の特性には気づかなかったようです」

 ある時Aさんは、この部下が発達障害の一種、ASDの要素を持っているのではないかと気づいた。

「どう対処すべきか悩みました。失敗を注意すると、『はい、わかりました』と素直に言うから、こっちは理解して学習したと思いますよね。でもまた同じ失敗を繰り返すのです。こちらとしても、3度同じ失敗を繰り返されては困りますから、今度は違った例え話を使ったりして、説明しますよね。また同じく『はい、わかりました』と答えるんです。そうして、また同じ失敗を繰り返す。これには本当に困りました。その後、発達障害である可能性があると気づいて、参考文献を読んで対処方法を学びました。発達障害の人には例え話は理解できない、きちんと論理的に説明しなければダメだということを知りました。それからは視覚的に納得がいくように図に書いたりして、論理的に伝えるようにしました」
 
 思わぬタスクでつまずくことも多かったという。

「例えば音楽パッケージ作品で、帯のキャッチコピーを短い言葉でまとめてほしいと頼んだんですが、1週間くらい上がってこなかったのです。どうなったか聞いてみると、できましたと言って出してきたのは、キャッチコピーではなく、細かい言葉でびっちりと書かれた説明文でした。そうか、発達障害の人には、要約するということが難しいんだと理解しましたね」

 発達障害の人は一所懸命に物事に取り組むため、真面目な面が強調される場合も多い。特に「字義通り」という特性があり、良い方向に行けば、仕事でも大きな成果が出るのだが、場合によっては業務に支障をもたらすケースもある。