社会のIT化という環境変化
アマゾンの台頭

 1980年代以降、シアーズの成長には陰りが見え始めた。ライバルであるウォルマートが“エブリデーロープライス”を掲げ、安売り戦略を強化してシェアを伸ばしたことはその一因だ。2000年代に入ると、ネットワークテクノロジーを駆使してアマゾンがECを世界に浸透させた。

 19世紀終盤から20世紀中盤にかけて米国の物流業と小売業を牽引したシアーズは、21世紀型の物流革命を目指すアマゾンの取り組みに対応できなかった。それは、シアーズがIT化という環境の変化に適応できなかったことを意味する。同社は店舗事業の強化にこだわり、2000年代にはカタログ通販事業が閉鎖された。当時の同社には、ITネットワークと自社の強みであるカタログ通販を融合させる発想がなかった。

 この意思決定はシアーズのアイデンティティー喪失につながったといってよい。多くの消費者がシアーズに求めたのは、自宅でカタログに掲載されている商品を使うシーンを思い描き、イメージした暮らしを実現することだった。カタログ通販の停止によって、シアーズは顧客のロイヤルティ(信頼、愛着)を失ったともいえる。その結果、同社は特徴のない小売企業になった。

 これに対して、アマゾンは独自の物流網を整備して消費者の支持を獲得してきた。ネット上で商品を注文し支払いを完了することはできる。その上で商品を手にして実際に使うためには、効率的な物流ネットワークが必要だ。スマートフォンなどのデバイスを駆使し、アマゾンはネット空間と消費の現場を円滑につなげることを目指している。この快適さ、便利さこそがアマゾンユーザーの増加を支えている。この結果、消費の場が店舗からネット空間に移行し、米玩具大手のトイザラスは経営破綻に陥った。

 一方、ホームデポのように店舗での消費体験を演出することで成長を維持する小売企業もある。要は、アマゾンにはない消費体験を創造できるか否かが企業の存続を分ける。それが経営者の腕の見せ所だ。シアーズが行き詰まったのは、経営者に自社の強みを十分に生かし、ネットワークテクノロジーという新しい要素と既存ビジネスを結合させる発想がなかったためと考えられる。

本当の小売業を知らない
ファンド出身経営者

 2005年、シアーズはエドワード・ランパート現会長が率いる投資ファンド傘下に入った。これは、シアーズの凋落を加速させた要因と考えられる。