東芝メディカルシステムズがキヤノングループ入りしてまもなく2年。2018年にキヤノンメディカルシステムズへ社名変更した医療画像診断装置の国内最大手は、ヘルステック時代にどこへ向かうのか。第四次産業革命の渦の中で「ヘルステック」が盛り上がる医療・ヘルスケア産業のリアルをレポートした『週刊ダイヤモンド』7月21日号の第1特集「製薬 電機 IT… 医療産業エリート大争奪戦」の続編として、キヤノンメディカルシステムズの瀧口登志夫社長のインタビューをお届けする。激変の大波を受けてなお信念は入社以来不変、産業の変化を語る目は驚くほどに冷静なものだった。(聞き手/「週刊ダイヤモンド」編集部 臼井真粧美)
――2016年12月にキヤノンが東芝メディカルシステムズを買収してからまもなく2年が経ちます。
東芝の中でね、当社は長年に渡って「自己完結的ビジネス」でした。エレクトロニクスがどんどん進化した70年代、80年代はシナジーがあり、総合電機メーカーだからこそできたビジネスだった。エレクトロニクス技術を医療機器用に改良あるいは進化させて作るっていう部分に、われわれの寄って立つものがあった。コモディティ化したエレクトロニクスが医療機器にすぐ活用できるようになってくるとシナジーは薄れていきました。
――というと?
マイクロコンピュータで言えば、ワンチップのマイコンがあった時代でも、医療機器に使うためにはマザーボードから作り、ソフトウェアのOSだって自分で作っていた。でも今はデファクトができあがり、アプリケーションに集中して開発できるようになった。そこからは東芝の中でも割と独立した運営がなされるようになりました。故に切り出し(東芝メディカルシステムズの売却)がしやすかったんでしょう。
――独シーメンスがヘルスケアを分社化してIPOするなど、世界メガも大きく動いています。
欧米のコングロマリット(複合企業)は、各事業がカンパニーとして別会社で運営されて事業間の関係はそんなにないけれど、同じ名前を持つコーポレートのバリューで繋がるスタイルですよね。日本の場合、特に東芝グループの場合、そこに少し問題があったのかもしれない。
分社化していたけれども、東芝グループとして求心力を働かせるようなコアなバリューがなかったのかなというふうには感じるときはあります。ただ、われわれ(の売却に)ついては、事業的にもともと独立していたということが大きい。
――キヤノンに買収されたメリットは、キヤノンの技術活用もあるでしょうが、何より育成事業としてM&Aなどを含め投資してもらえることに大きな意味がある印象です。
それはものすごくあると思います。ただね、東芝時代になかったわけじゃない。投資する対象として期待されてはいました。当社が投資対象であるという位置づけ、そうした流れはキヤノンになったから急に出てきたというわけではなくて、もともとあった。
当社は世界ナンバーワン、ナンバーツーという追いかけるべき存在があって、シェアの差でいうと画像診断だけで見ても2倍以上。ということは、ゲームチェンジになるようなテクノロジーなり事業戦略なりを持ち得れば、われわれの“1丁目1番地”である画像診断でまだまだ成長する余地がある。
われわれには3つの成長の軸があります。1丁目1番地において現状のビジネスポートフォリオをさらに強くするということ。その延長線上にITを使ったさまざまな進歩があり、ここも一つの軸。商品名でいうと「Abierto」(医療情報ソリューション 。機器メーカーや医療現場の部門ごとに独立していた画像、文書等の診療データを統合・ 管理し、表示、加工にいたるまで、顧客診療データをより使いやすく、さらに価値ある情報にするもの)。
――1丁目1番地で競合する世界メガはソフトウェアに力を入れています。
ソフトウェアでさらに価値をつけようというのが主流だし、世の中的に受けもいい。ただ、その中にあってもわれわれは、ハード自体はさらに追求していく。CTで高精細な画像を撮ることを提案し続ける。例えば、がんの中でもすい臓がんは、致死率が非常に高い。それがなぜかというと、ごく早期の段階で発見しにくいから。他社がどこに注力しようが、うちはハードウェアを開発し続けることを捨てません。
――高精細な画像を撮るためにAI技術などを使っていく?
使います。高精細にするには、ノイズの除去が必要で、そこにAI技術が使われています。ハードウェアの開発といっても、ソフトウェアの開発も必要なんです。その両方によってモダリティ(医療機器)そのものの競争力を高めるということって、まだまだできる。それをやることによって、世界のマーケットの中で占めている割合を少しずつ高めていきます。
――現状の画像診断世界4位から――
3位にも2位にもなれると思っています。
――いつまでに?