実は、この佐藤さんは、優秀な人が突き当たる「成長の壁」のうちの一つ突き当たっているのです。
それは、
「優秀さ」の切り替えができない
という「学歴の壁」です。
これは、前回の記事で述べた、「学歴」という落し穴に陥る人が、突き当たっている壁でもあります。
※参考
なぜ、「勉強ができる人」は「仕事ができない人」になってしまうのか
https://diamond.jp/articles/-/184594
すなわち、どれほど学生時代に「勉強ができる」と言われ、「高学歴」を手にしても、ひとたび実社会に出た瞬間に、その「学歴的優秀さ」だけでは、「仕事ができる」人材にはなれないのです。
実社会において活躍するためには、誰であろうとも、「職業的優秀さ」を身につけなければならないのですが、学生時代に「優秀」と言われた人ほど、この「学歴的優秀さ」から「職業的優秀さ」への切り替えができないのです。
佐藤さんが突き当たっているのは、その壁なのです。一方、鈴木さんは、「学歴的優秀さ」においては、佐藤さんに劣っていますが、だからこそ、一生懸命に、実社会で求められる「職業的優秀さ」を貪欲に身につけようとしています。そして、その姿勢の違いが、佐藤さんと鈴木さんの営業成績での違いとなって表れているのです。
なぜ、いくら本を読んでも、仕事につながらないのか
前回の記事では、「学歴的優秀さ」とは「論理的思考力」と「知識の修得力」が優れていることであると述べましたが、分かりやすく言えば、「理路整然と物事を考えられる」ということと、「記憶力が良い」ということです。この2つの能力があれば、入学試験や資格試験などでは、好成績を挙げることができます。
これに対して、「職業的優秀さ」とは、この2つの能力よりも、さらに高度な「直観的判断力」と「智恵の修得力」において優れていることを意味しています。分かりやすく言えば、「勘が鋭い」ということと、「経験から大切なことを学べる」ということです。
いま、「経験から大切なことを学べる」と言いましたが、それが、「知識の修得力」と「智恵の修得力」との大きな違いです。では、この2つは、何が違うのでしょうか。
そもそも、「知識」と「智恵」とは、何が違うのでしょうか。
端的に言えば、「知識」とは、言葉で表せるものであり、「書物」や「ウェブ」で学ぶことのできるものです。
これに対して、「智恵」とは、言葉で表せないものであり、「経験」や「人間」を通じてしか掴めないものです。
すなわち、この「知識」とは「文献知」や「言語知」とも呼べるものであり、「智恵」とは「実践知」や「経験知」とも呼べるものです。
ちなみに、この日本で「智恵」と呼ばれるものは、欧米では、かつて、科学哲学者のマイケル・ポランニーが「暗黙知」(tacit knowing)と呼んだものでもあります。彼は、著作『暗黙知の次元』の中で、「我々は、言葉で語れることよりも、多くのことを知っている」という言葉を残していますが、実際、我々は、言葉で表せる「知識」以上のことを、経験を通じて知っており、これを日本では「智恵」と呼んできたのです。
では、なぜ、「知識」と「智恵」を区別することが大切なのか。