前回は、給付付き税額控除の基本的な仕組みを解説し、その政策ツールとしての魅力を最低賃金制度など他の低所得者対策との比較のなかで整理した。給付付き税額控除とは、個人所得税制を通じて、税負担の調整のみならず、低所得者に対し現金給付まで行う包括的な政策ツールである。ただし、給付付き税額控除は魅力的なツールであるとしても、即座に導入出来る訳ではない。この仕組みが実効性をあげるためには、いくつかの行政インフラの整備が欠かせない。今回は、こうした行政インフラ整備の課題を採り上げる。

現状ではなぜ金融資産所得を
他の所得と合算できないか

 給付付き税額控除を導入するためには、行政インフラの整備が欠かせず、実際、政府も、次のように国民1人ひとりにID番号(個人識別番号)を付番する番号制度(マイナンバー)の本格的な稼動と定着を、給付付き税額控除導入の前提としている。なお、マイナンバー法案(行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律案)は、今国会に提出されている。

「番号制度の本格的な稼動及び定着を前提に、(中略)、給付付き税額控除等の低所得者に配慮した再分配に関する総合的な施策を導入する」(社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法等の一部を改正する等の法律案要綱)。

 もっとも、マイナンバー法案だけでは十分ではない。むしろ、マイナンバーが導入された後こそ、行政インフラ整備の正念場であるといえるが、法律案要綱などをみても、政府・与党がそれを十分に認識している様子はうかがえない。

 番号制度を導入する本来的な趣旨は、正確な所得捕捉、言い換えると、本当にお金がなくて困っている人とお金持ちとを、税務当局が正確に把握し、本当に困っている人に対し、政府が社会保障給付や税制など(以下、単に社会保障給付)を通じて、手を差し伸べることにある。困っていない人にまで給付がなされるのは、効率的でも公平でもないからだ。しかし、マイナンバー法が成立しただけでは、そうした本来の趣旨は実現できない。