街を歩いていて、同じコンビニが近距離に出店しているのを見かけたことはないだろうか。同じコンビニが隣同士、あるいは極近距離に出店するのには、企業側の戦略など、さまざまな理由があるそうだが、実は出店すること自体は問題ないらしい。その一方、業種によっては近距離で出店することが法的に禁じられている店があるというのは、あまり知られていない。弁護士の高畑富大氏に聞いた。(清談社 島野美穂)

公衆浴場は300メートル以上
離れていないと営業できない

銭湯が隣接して営業することは、なんと法律で禁止されています。銭湯や小売市場の開設には法律で距離制限が定められているが、コンビニやラーメン屋は自由。一体、そこにはどんな理屈があるのだろう?(写真はイメージです) Photo:PIXTA

「公衆浴場は、隣接して営業することが法律で禁じられています」──。

 公衆浴場の定義は、『温湯等を使用し、男女各一浴室に同時に多数人を入浴させる』というもので、いわゆる銭湯のことを指す。言われてみれば銭湯が隣同士にあるのは見たことがないが、法律的に禁止されているのはどういった理由からなのか。

「公衆浴場の営業には距離制限が設けられています。具体的な距離は各都道府県によって異なりますが、たとえば東京都の条例には、【既設の普通公衆浴場と三百メートル以上の距離(浴場本屋の四壁中最近の部分間でこれを測定する。)を保たなければならないこととする】と書かれています。仮に公衆浴場を営業するとなったら、既設の浴場から300メートル以上離れた場所でないといけません」(高畑富大弁護士、以下同)

 ただし、土地の状況、構造設備、予想利用者の数、人口密度等を考慮し、知事が公衆衛生上必要であると認める普通公衆浴場の設置場所については、この限りではないという。

「実際に、公衆浴場を営業しようとしたものの、距離制限によって不許可処分を受けたため、その取り消しを求めて裁判になったケースがあります。その際に裁判所は、『距離制限は、既存の公衆浴場業者の経営の安定化を図ることにより、自家風呂を持たない国民にとって必要不可欠な厚生施設である公衆浴場を確保しようとしており、必要かつ合理的である』と判断し、不許可処分の取り消しを認めませんでした」

 こうした条例には時代背景が大きく関係している。この裁判が行われたのは平成元年(1989年)。当時の日本は、自家風呂の普及に伴い、外風呂の利用が著しく減少していた。公衆浴場の建設を規制することで経営の安定化を図ることは、すなわち、国民の生活を守ることでもあった。