ブルー・オーシャンを基盤に構想された「受験(スタディ)サプリ」

入山 では、次は山口さんにお願いします。実は、私が『[新版]ブルー・オーシャン戦略』で日本のブルー・オーシャン事業の一例として紹介したのが、リクルートマーケティングパートナーズの「受験サプリ」、つまり現在の「スタディサプリ」でした。その取材のために山口さんにお会いすると、なんと受験サプリは実際に、「ブルー・オーシャン戦略」を基盤の一つにして構想したビジネスだと山口さんがおっしゃって、その時は本当に驚きました。

山口 私はリクルートマーケティングパートナーズの社長として、新規事業の「スタディサプリ」だけではなくて、「ゼクシィ」や「カーセンサー」といった大規模な既存事業の経営も担っています。両者とも20年前、30年前はブルー・オーシャンでした。そして「ゼクシィ」は今でも業界トップのポジションを維持しています。しかし、結婚式/披露宴も多様化しています。「カーセンサー」はライバルとしのぎを削るレッド・オーシャンに近い市場にあります。

入山 つまり、山口さんはブルーとレッドと両方をご覧になっているわけですね。

山口 そうです。だから面白いんです。ブルー・オーシャンを駆け抜ける新規事業をやりながら、競争が激しくなる市場の商品の価値をどうやって上げていくのか、いくつかのポートフォリオを組んで経営しています。
 
入山 なるほど。すると短期的なPLも気になりますよね。

山口 朝倉さんの『ファイナンス思考』を読んで改めて思うのですが、私は短期の業績責任を負っていますが、実はPLはそれほど気にしていません。それよりも、帰宅して安心して眠れるのは、すべての事業が長期においてブルー・オーシャン、つまり圧倒的な唯一無二の価値を作り続けていること、あるいはレッド・オーシャンでも競争優位の価値を作り続けていることを確認すると、コテッと眠れます(笑)。

入山 ははは。確認するためのKPI(主要業績評価指標)はありますか。

山口 レッド・オーシャン化した既存事業では、短期的なKPIを見ても分からないんですよ。既存事業では常に隣接した市場でブルー・オーシャンを作れないかとか考え、フィジビリティ・スタディをやっております。

入山 本当に「ブルー・オーシャン戦略」で考えているんですね!

山口 経営のリーダーとしては、ブルー・オーシャンを描いてメンバーに語りかけていないと、みんな未来が見えませんからね。リーダーの役割だと思います。

入山 なるほど…。朝倉さん、山口さんの考え方についてはいかがですか。

朝倉 このようなお話が山口さんから出るのは、40歳という山口さんの年齢にも関係あるのではないでしょうか。考えてみれば、10年前であっても「失われた10年、20年」といったフレーズは連呼されていましたし、人口減少と市場縮小に対する警鐘は鳴らされていましたよね。ただ、その時の主な意思決定者の方々は、逃げ切れる世代の人たちだったわけです。現在の幹部職を中心に、逃げ切れない世代の方々の中に、自分たちがなんとかしなければいけないと問題意識を持っていらっしゃる方々がいることの表れではないでしょうか。だからこそ今、『ブルー・オーシャン・シフト』が読まれているのかもしれません。

入山 覚悟を決めた、というわけですね。それでは、いよいよキム先生に伺いたいと思います。二人の若い企業家の意見をキム先生はどのように思われますか。