デジタル化が進むなか、仕事の「場」「専門スキル」をいかに考えるべきか? 書籍『マーケティングの仕事と年収のリアル』の著者・山口義宏さん(インサイトフォース代表取締役。@blogucci)が、マッキンゼー、Google、リクルートなど13職を経たIT批評家の尾原和啓(@kazobara)さんと、リクルート出身で数々の起業経験をもつ事業家のけんすうこと古川健介(@kensuu)さんという、その道のプロお二人を迎えてお送りする豪華鼎談。第3回では、ウェブの世界であっという間に特定スキルが役に立たなくなる背景が議論され、じゃあどうすればいいの?という疑問・不安にヒントがもらえます。

人工知能のエサになってもいいのか

山口義宏さん(以下、山口) この『マーケティングの仕事と年収のリアル』を書いたきっかけは、アラサ―前後の人たちからキャリア相談をすごく沢山受けるようになったことだったんです。お二人にもそういう相談がくるんじゃないですか。

尾原和啓(おばら・かずひろ)
1970年生まれ。京都大学大学院工学研究科応用人工知能論講座修了。マッキンゼー・アンド・カンパニーにてキャリアをスタートし、NTTドコモのiモード事業立ち上げ支援、リクルート、ケイ・ラボラトリー(現:KLab、取締役)、コーポレイトディレクション、サイバード、電子金券開発、リクルート(2回目)、オプト、Google、楽天(執行役員)、Fringe81(執行役員)の事業企画、投資、新規事業などの要職を歴任。現職の藤原投資顧問は13職目になる。ボランティアで「TEDカンファレンス」の日本オーディション、「Burning Japan」に従事するなど、西海岸文化事情にも詳しい。著書に『どこでも誰とでも働ける』(ダイヤモンド社)、『ITビジネスの原理』『ザ・プラットフォーム』(NHK出版)、『モチベーション革命』(幻冬舎)などがある。

尾原和啓さん(以下、尾原) けんすうも、めっちゃキャリア相談受けてるよね。

山口 けんすうさんに、もし20代半ばでネット広告代理店3年目、まさに3匹目から3000匹目のドジョウを堀りおこすための拡大再生産的な営業や納品ばかりガリガリやってます、みたいな子からキャリア相談がきたら、なんて答えますか。

けんすうさん(以下、けんすう) 今すぐ辞めたほうがいいですね。って言うでしょうね。

 これ結構厳しい話で、ネット広告とかでマーケティングやってる人のスキルって、1年後に本当に無意味になるっていうのを我々ずっと見てたから。SEO(検索エンジン最適化)もSEM(検索エンジンマーケティング)もFacebookなどの運用広告も。労働力も多いので、使い倒される。

尾原 Googleに新卒で営業として入るほど馬鹿な奴はいない、っていう話ですよね。

山口 なるほど(笑)。

尾原 だって、Googleって自動化する会社だから、使い捨てにされるために入るのか、と思いますよ。まず第一歩として営業に入っただけで、とっとと高い評価を受けてプロダクトマネジャーやマーケティングに回るんだ、という明確なビジョンストーリーを持っているならいいけど。今まで会った中で、そんな奴は1人もいない。

けんすう Googleを辞めて別のところで働いている超優秀な人を知ってるんですけど、「俺は人工知能のエサにされてるってことに気づいた」と言ってましたね。

尾原 そうそうそう。

けんすう いきなり営業職全員で海外出張に行けって言われて、たぶんこれは一週間全員がいなくなったときの実験をしてるじゃないか、とすごい感じるらしいんですよ。色々試してみて、「最終的にはこの人たちいらないね」って結論が出るだろうなと思って、すぐ辞めたという。

山口 会社全体の実験だ。

デジタル化で仕事が「細分化する」と思うと見誤る

尾原 インターネットのマーケティングって、ある時うまく使えるところの一点突破ですごいお金が稼げちゃうから、逆に言うと、一点突破だけできればいいという発想に陥りやすいんですよ。たとえば、Googleで僕が話したのは、Googleが年間2000億円のマーケットを占めてるのはすごいかもしれないけど、8兆円ある広告市場のうちのたかだか2000億円なんだ、と。残りのチラシや新聞広告、テレビCMのロジックも皆さん当然優秀だからご存じのうえのことなんですよね、と言って、ものすごく嫌われたんですけど(笑)。

山口 でも、仰るように「横断」てすごく大きなキーだなと思って。デジタル化は果てしなく細分化して新しい領域が出てくるので、細分化された領域をひたすら繰り返す仕事が増えている感覚がすごいあるんですよ。でも、そういうスキルはすぐに使えなくなって、本人に資産として残らない。

けんすう(古川健介 ふるかわ・けんすけ)
1981年生まれ。2000年に学生コミュニティであるミルクカフェを立ち上げ、月間1000万pvに成長させる。2004年、レンタル掲示板を運営する株式会社メディアクリップの代表取締役社長に就任。翌年、株式会社ライブドアにしたらばJBBSを事業譲渡。2006年、株式会社リクルートに入社、事業開発室にて新規事業立ち上げを担当。2009年6月リクルートを退職し、ハウツーサイト「nanapi」を運営する株式会社ロケットスタート(のちに株式会社nanapiへ社名変更)代表取締役に就任。

けんすう まさに。「細分化」だと思うと見誤る。尾原さんが言ってたように、その一点に波が来ただけなので、1~2年は流行ってもすぐニーズがなくなります。ちょっと前まで、SEMの専門スキルを持った人ってマジでいたんですよ。その3年ぐらい前は、自動広告に最適化する人とか。

山口 そういう人たちって、ニーズがなくなったらまた次の専門スキルを学ぶんですか。

けんすう なんですけど、この世界は物量で勝負をかけたほうが有利なので、体力的に若手に勝てなくなって、35~40歳ぐらいになると専門性がないまま業界から消えていきます。しかも、死滅するタイミングは、昨日まで大丈夫だったけど今日から死にます、っていう予測不能な時間軸なので。

山口 突然の宣告死。怖いですね。その人たち、今何をされてるんですかね。

けんすう 割と転職もできないからキツいんですよ。

尾原 最近NPOのPRに、そのあたりの領域で死滅して移った人は多いですね。一個一個の漁場では全力出さないと勝てないんですよ。とはいえ、半年か1年はここで行けるかな、とその漁場の賞味期限を見つつ、次はどっちの漁場に移るか見渡すプロデューサーの視点は必要ですよね。その視点をもたずに、ただ漁場の中を泳いでいたら死にます。ましてや、今後はプラットフォーマーが売上を上げるためにこれまで以上にオイシイ部分を吸い取っていくから、ますます厳しくなるはず。

勝ち組のFacebookやGoogleも、業界では後発だった

山口 コモディティ化しない専門性を見極める大事さはあらためて痛感したんですけど、もうひとつ事業の立ち上げ期→成長期→成熟期とステージがあるなかで、人によって得意とするサイクルも違うと思います。お二人は基本的に、事業が立ち上がる最初のタイミングに特化して、関わられているんですか。

尾原 僕は42.195キロのマラソンより、100メートルダッシュが速い男なので、事業の基盤づくりの自分が勝てるタイミングだけ参画してます。

けんすう 個人的には、地場づくりをする人がちょっといて、ある程度のルールが確立した直後ぐらいがオイシイかなと思っています。


山口 義宏(やまぐち・よしひろ)
インサイトフォース代表取締役
東証一部上場メーカー子会社で戦略コンサルティング事業の事業部長、東証一部上場コンサルティング会社でブランドコンサルティングのデリバリー統括などを経て、2010年にブランド・マーケティング領域支援に特化した戦略コンサルティングファームのインサイトフォース設立。大手企業を中心にこれまで100社以上の戦略コンサルティングに従事している。著書に『デジタル時代の基礎知識『ブランディング』 「顧客体験」で差がつく時代の新しいルール』(翔泳社)など。東京都生まれ。

山口 ベンチャーキャピタルから大量のお金が集まり始めて、成長カテゴリーぽい匂いがしてきたときなんですかね。

けんすう そうですね。だいたい10人が10通りワーッとやってみて、1つぐらいうまくいく方法が見つかったぐらいのタイミングで入って、そこから10人成功するまで見届ける感じですかね。

 10人成功するあたりまでいくと、超レッドオーシャンで過当競争になってる。そこに入るには、今からYouTuberになる人ぐらいの大変さがありますよね。

 HIKIKIN(中学生当時の2006年末にYouTubeに自分の公式チャンネルを開設し、2010年に日本国内月間アクセス1位となり、米国のニュース等でも取り上げられて知名度が急速に上がった)さんが成功しつつあるのを見て「行ける」とYouTubeに入ってきたタイミングの人たちって割と成功しやすかったのです。そういう地場が整った直後あたりが、一番オイシイだろうと思います。

山口 すごい分かりやすい。10人成功させた後では、もう遅すぎるってことですね。

けんすう でも、HIKAKINさんと同じタイミングで始めるのは、失敗する9人に入る可能性も高いわけです。早すぎるというか…当時から、いろいろな天才たちがYouTubeをやってたわけですが、HIKAKINさんのやり方がよかったかどうかは、結果がでるまでは誰もわからなかったんですよ…。

 そういう意味で、我々も多分、新しい方法をいきなり切り拓いてる感じはないですね。尾原さんもオンラインサロン業界では最後発です。ただ、オンラインサロンの勝ちパターンが明確になったあとの戦場でいうと早い、という、絶妙なタイミングですね。

尾原 徹底的に研究し尽くして、浪費されない場所を選んでるんですよね。

山口 なるほど。

けんすう FacebookもSNSの中では最後発のほうですし、Googleも検索エンジンの中では相当あとです。

尾原 実はね。

けんすう それがいいんじゃないですかねえ…と思ってます。

山口 生き馬の目を抜くようなウェブの世界の実態がすごい整理されてよくわかりました。ありがとうございました!