コモディティ化したスキルは、ウリにならず、転職の強みにもならなくなります。特にウェブマーケティングの世界では、自分の専門性がどんどんコモディティ化していくのを感じる人も多いのではないでしょうか。アナログな手法であっても、流行り廃りがありますし、もっと言えばこの「コモディティ化」はマーケティングに限らないと言えるでしょう。では、どのようにコモディティ化の始まりを察知し、対応すればよいのか。それについて、書籍『マーケティングの仕事と年収のリアル』から一部ご紹介していきます。
自分の専門領域がコモディティ化してきたことを、どのようなサインから見極められるのでしょうか? 非常に難しい判断ですが、ある専門領域で特化した支援会社が、それに加えて「ブランディング」を訴求に持ち出したときが、その領域がコモディティ化したサインと私はみなしています。コモディティ化していない稀少性のある時期であれば、「◯◯マーケティング」や「◯◯手法」と、その専門特化の看板さえ掲げていれば仕事がやってきます。しかし、それらの領域がコモディティ化すると、その看板だけでは差別化できない、あるいは単価が維持できないため、専門領域と汎用性の高いブランディングを掛け合わせて訴求していくことが増えるのです。
たとえば、PR支援をしていた会社が、「弊社はブランディングにも効果のあるPR支援を提供する」と訴求し始めるケースです。PRの部分を、SNSや通販に変えても同じです。同様に「ブランディング」を「顧客獲得」に置き換えるパターンもあります。ブランディングは、どの施策にも関わりがあり、より上位の概念なので接続がしやすい。同様に「顧客獲得」は、どのマーケティング施策も最終的には売上=顧客獲得につなぐ役割を担うため、やはり接続しやすい概念です。
このように専門領域のコモディティ化が始まったら、上位概念のブランディングか、最終目的である顧客獲得(売上)のコンセプト、または“データ・ドリブン”などのアプローチが掛け算されて、差別化を強調した訴求が増えていく、と頭の片隅にいれておきましょう。
ただし、自分の専門領域がコモディティ化したと理解したとき、すぐにあきらめる必要はありません。たとえば、過去数年でも「リサーチャー」はコモディティ化した職種とみられていましたが、「データサイエンティスト」という切り口に変わった瞬間に良い条件の求人が急増し、需要が供給を上回っていました。この両者のスキルを分解すれば違いも多々ありますが、「データ統計分析に基づき、ビジネスに有用な示唆を提示する」ことが大きな共通性として見出せます。つまり、「リサーチャー」であっても、転職市場が求める「優れたデータサイエンティスト」とのギャップを分析し、足りないスキルと経験を補っていけば、より良い転職機会を得やすくなります。
同様に「企業のSNSマーケティングのアカウント運用担当者」も、今では業務ナレッジがコモディティ化し、範囲も狭すぎて高い値段はつきません。しかしSNSだけでなく「ネット広告」や「マス広告」と適切に連動させて成果を生み出す「デジタルマーケティング専門家」という、より上位の立ち位置になれば、旺盛な需要があります。そのギャップを、どう戦略的に埋めるのか? その発想が大切です。
そもそも「データサイエンティスト」「デジタルマーケター」というような新しいコンセプトの職種は、その黎明期には明確に合意されたスキル要件がありませんし、名乗った者勝ちのような玉石混交の時期もあるので、そのような黎明期こそチャンスともいえます。まだ熟達した手練のスペシャリストはひとりもいないのです。そのようなタイミングでは、みずからアンテナを立てて、社内での業務や社外での勉強会やセミナーに参加するなどしていち早く情報を集め、成長に向けた投資を実行していけば、良い機会を得られる可能性も高まります。
アラサーのタイミングで大きな年収上昇をめざす人は、20代のうちに従事するマーケティング業務が、市場で差別化されたスキル開発につながるよう、能動的に社内外で動きましょう。その経験蓄積が、アラサーのタイミングにおける転職市場で交渉力を高めることにつながります。
結果論ですが、過去5~6年のマーケティング業界の転職動向を眺めていると、デジタルマーケティング、戦略PR、ダイレクト・マーケティングといったニーズが拡大する分野で、プロジェクト・マネジメントを担い大きな成果を出せるアラサー層は、比較的有利にその後の職場を選べています。それこそ世間的には無名に等しい中小規模の支援会社から、ユニクロ、ソフトバンク、ナイキといった大手事業会社に専門性を評価されて転職したケースもあります。
新興系で中小規模の支援会社は、年齢や経験が浅くても、人材の層が薄いため、能力次第では大きな仕事のプロジェクト・マネジメントを任されやすい環境です。大手企業での経験が有利とは限りません。
自分を“労働市場における商品”に見立て、高く購入してくれそうなターゲット企業と、そこへの提供価値を見定め、みずからを計画的に育成する、そんなマーケティング戦略が欠かせません。もちろんこれは社内での出世をめざすときも同様です。売り込む先が異なるだけで、「自分を現在の会社に高く買ってもらうには、どうすればよいか」とみずからに問いかけ、能力と実績を開発することに変わりはありません。
ただし、経営陣によっては、従業員から給与水準や昇格について交渉されること自体を嫌う場合もあります。会社と従業員の関係が対等なビジネス関係と捉えていない経営陣も存在しますので、交渉をもちかけてよい相手なのかは慎重に見極めましょう。
当たり前の話ですが、転職という手段は、所属する企業で高く評価されていない人が、環境さえ変えれば短期的に年収が高まる、という魔法の杖ではありません。また、自分の能力や実績を盛りすぎて高く売りすぎると、すぐに化けの皮が剥がれ、転職先での立場は危うくなります。
マーケティングのプロジェクトはチームで遂行されますが、自分が薄く関わっただけのプロジェクトでも、さも自分が主軸となって成果を出したと喧伝するような「あれオレ詐欺(あの成功案件はオレがやりました)」ともいえる売り込みをかける人をたまに見かけます。しかし、これも仕事ぶりや周囲の人のクチコミからいずれバレる話なので、控えるべきです。実像を超えた売り込みによって短期的に年収を高めても、相手の期待値と成果が釣り合わず、信頼を損ねることになっては、その後の待遇は尻すぼみです。