マーケティング職としてキャリアと年収を高める最初のタイミングは、アラサーでやってきます。では、このタイミングで自分を高く売るには、どうすればよいのでしょうか? そのポイントについて、書籍『マーケティングの仕事と年収のリアル』から、一部抜粋してご紹介していきます。

 本連載で、マーケティング職としてキャリアと年収を高めるうえで、意識しておきたい、成長ステージの6段階や働く場について触れてきました。また、キャリアと年収を高める最初のタイミングは、アラサ―前後でやってきます。このタイミングで自分を高く売るには、どうすればいいと思いますか?

マーケティング職としてアラサ―で「売れる」ポイントとは?(イラスト:ひらのんさ)

 シンプルに言えば、給与水準が高い大手広告代理店や事業会社が「今後も重要と考え、内製化したいと考えているマーケティング施策領域のスペシャリスト」になっていることです。

 企業が内製化を指向し、採用するマーケティングのスペシャリスト領域には2つあります。

 ひとつは、特に目新しいマーケティング施策スキルではないが、常に一定の需要がある施策を担い、内製化によってコスト削減を達成する人員です。2つ目は、マーケティングの世界でも新しい領域のスキルで、社内に新しいノウハウを取り込み、マーケティング能力と成果を高める目的で採用する人員です。過去5~6年で言えば、戦略PR、デジタルマーケティングと呼ばれる領域カテゴリの専門家がその代表例でしょう。

 前者のコモディティ化した定常業務のスペシャリストは、スキル自体はコモディティ化しているため、転職時に高い年収を提示されることはありません。しかし、年功序列の傾向が強い事業会社であれば、年齢とともに年収がじっくり上がっていく賃金体系です。給与水準が高い大手事業会社であれば、40~50歳で年収800万~1000万円は見込めるでしょう。支援会社でも一部の外資系では、同様の水準が見込める会社もちらほらあります。

 この目新しくはないけど、事業会社が内製化したがるスキルをもつ職種の代表例は、調査・分析のスキルをもつリサーチャーや、ウェブサイトの制作・更新のディレクション~管理のスペシャリストです。

 小さな事業会社であれば、調査やサイトの更新を外注に丸投げし続けている業務のなかで、一部分を内製化し、コスト削減を目的にしてアラサー前後のスペシャリストを採用する機会が増えます。また大手企業であれば内製化するためにすでに抱えているスタッフも多く、専門の部門やチームもあり、そこで欠員が出たら外部から補充します。調査やウェブサイトの業務量は、売上規模、商品アイテム数に比例する傾向があり、シャンプーや化粧品のような日用品や飲料の業態になると取り扱いブランド数も増えます。

 携帯電話キャリアや自動車メーカーくらい大きな企業となると、年間の調査予算だけで億単位の予算をもち、相当数のスタッフを抱えていることは珍しくありません。

 後者のマーケティングの新しい専門領域のスペシャリストは、企業側で採用の緊急性が高く、組織として伸ばすべき重点領域とみなしている場合、その責任者レベルでの採用となれば、転職初期から大きな昇給が見込めるケースが増えます。それは人件費の意味合いが、コスト削減のための採用ではなく、自社の価値を高めるための投資に変わることに加え、需要に対して良い人材が少ないためです。

 事業会社でも、昇給ペースが速い外資系企業であれば、30歳過ぎで1000万円を超える場合もあります。実際に私が転職相談を受けて企業に紹介した中にも、年収600万円ほどの支援会社から外資系事業会社に転職し、3年程度で年収1200万円と倍増した人もいます。これほど短期間に大きく伸びるのは極端な例ですし、そもそも当人が非常に優秀だからこそですが、そういうキャリアアップもあり得るということです。

 支援会社でも事業会社でも、たとえば30歳という年齢で切り取って、転職すればすぐに給与が大きく高まるぐらい市場価値と現在の年収のギャップがある人は、どのくらいいるのでしょうか? 私の定性的な印象ですが、せいぜい上位5~10%程度にすぎないでしょう。少なくとも、転職で大きく年収が高まるのは、社内では自他ともに認める若手世代のエース級と位置づけられる人の話です。

 しかし、そのエース級の下に続く、平均レベルより上だけどエース級には達しないような、社内の上位30~40%に当たる人々は、そこから選び取る環境によって年収が伸びるか・止まるかが変わります。そのため環境次第で、10~20年後には、単年度の年収でも稼いだ金額の累計額でも大きな差が出てきます。

 アラサーのタイミングでスペシャリストとしてどのような値段がつくかは、本人の資質や努力だけでは決まりません。コモディティ化した領域のスキル開発をしてきたか、需要に対して供給が少ない差別化されたスキル開発をしてきたかがポイントになります。ここでいうスキルの差別化とは、カテゴリ領域内の小さな差別化ではありません。たとえば、リサーチャーであれば同僚が知らないようなマニアックな統計や分析手法を身につけるのは、ひとつの差別化とはいえるものの、あくまでも社内や調査業界内で需要が限られた“小さな差別化”にすぎません。すると、転職市場で大きく評価されることはありません。

 オープンな転職市場で高く売れるスキルの差別化とは、需要があるのに供給が少ないカテゴリのスキルを指します。差別化するレイヤーを間違えてはいけません。採用市場で求められていない細かすぎるスキルを、本人は重要だと思ってこだわり、高く売れると信じている─そんなミスマッチに注意しましょう。