ジャック・マー氏が退任を決めた理由は
イノベーションの停滞懸念

「双11は、単に製品を売るイベントではない。それは、人々のアイデア、イノベーション、発明、創造を交換する機会である」、双11の開催を前にしたスピーチの中で、ジャック・マー氏はこう語った。この発言の趣旨は、新しいテクノロジーの恩恵(生活がより便利に、より豊かになってきたこと)を、多くの人に実感してもらいたいということだ。

 かなり早い段階からジャック・マー氏は、ネットワークテクノロジーの革新性を理解していた。英語教師だったマー氏が起業を決意したのは、米国のインターネットに衝撃を受けたからだ。独身の日の“爆買い”のプラットフォームである“タオバオ”や“Tモール”が生み出された背景には、米国のIT分野におけるイノベーションが、マー氏のアニマルスピリット(成功などを追求する血気)を触発したことがある。

 同氏が退任を決めた大きな理由の1つは、イノベーションの停滞懸念だろう。同氏は、米中の貿易戦争は愚かなことだと繰り返し批判している。その背景には、同氏の中に通商摩擦の激化によって、国境をまたいだIT先端分野でのアイデアの交換やイノベーションが停滞するとの懸念がある。

 また、マー氏は政府による圧力が一段と強くなる前に身を引きたいのだろう。中国政府はSNSなどを通して不満を持つ人々がつながり、社会が不安定化することを恐れている。すでに、中国政府は10億人のユーザーを持つテンセントの微信(ウィーチャット)への監視を強め、同社のデジタルゲームへの認可を凍結した。政府がIT先端企業に社会を監視するための技術開発を求め、経営の自由度が低下する恐れもある。

 加えて、中国政府による腐敗取り締まりは強化されている。その中で、著名起業家であり資産家であるマー氏への風当たりが強くなる可能性も否定はできない。ニューヨーク証券取引所にアリババが上場したのも、中国政府からの影響を避ける狙いがあったからだろう。