昨今、雇用をめぐる労使紛争や、労働基準監督署による残業代不払いの是正勧告件数が急速に増えています。企業としては適切に社員を待遇しているつもりでも、そうした紛争や勧告は、ある日突然経営者の元にやって来る場合が多いのです。社員と円滑な労使関係を維持していくにはどうしたらよいのか、ケーススタディを織り交ぜながらお話ししていきましょう。

ある日突然、労働基準監督署がやって来た!

 不動産販売業のA社は、昨今の景気情勢悪化の波を受け、利益が大幅に減少し続けています。社長のBさんは、業績回復のため、営業社員に対し高いノルマを課し、また、以前のような営業先からの直帰を許さず、毎日のように深夜まで営業会議を実施しました。

 このような職場風紀に耐えられず社員のCさんが退職していきました。社長のBさんとしては、営業成績が高くはなく、会社への貢献度が低いCさんの退職であったため、かえって安堵を感じていました。

 ところが数日後、退職したCさんが突然会社を訪ねて来ました。一緒にいるのは「労働基準監督官」です(文末「ひとこと」参照)。

 監督官は社長のBさんに言いました。

 「御社は元社員に対し残業代不払いです。適切に払ってください。計算では500万円です」

 まったく寝耳に水のB社長は、監督官に反論します。「残業代は不払いではありません。給料の一部に残業代を入れて支払っていました」

 「B社長、現在の就業規則では残業代不払いです」

 監督官の不変の回答に、事を大きくさせたくないという思いもあり、B社長はまったく納得はしませんでしたが、渋々支払いに応じました。今期の決算で何とか500万円の最終利益を見込んでいたのですが、儚くも元社員からの「残業代請求」により利益予測は崩れ去ったのです。