そもそも、ガソリンはどこで入れても品質に変わりはない。従って安いスタンドに顧客は集まる。セルフには給油待ち渋滞が起こり、フルは閑古鳥が鳴いているという状態はよく見られる光景だ。
そして20年以降は、「セルフ対セルフ」の戦いが本格化する。特徴がなければ生き残れず、今は目立たないコンビニやファストフード店と共同で出店する「異業種併設型セルフ」や、低コスト運営を追求し、価格勝負を仕掛ける「超効率型セルフ」などへ転換が進む。むしろ、そうした“ガソリン以外”が主力業態になると分析する。
現在、フルとセルフのスタンド数の比率は7対3。将来的にはフルが絶滅し、「残り3割」のセルフも業態転換が必至の情勢なのだ。
踏み出した昭シェル
長年の取り組みが強みとなったコスモ
こうした川下の激変に、川上の元売りはひとごとではいられない。
「元売りはあくまでメーカー。流通・販売は特約店の領域」と、エネオスなどのブランドを展開するJXTGエネルギーの幹部は余裕の表情を見せる。しかし、そんな悠長なことは言っていられない。
それはガソリンの卸先で、販売を担うスタンドが減れば、最終的には自らの業績を悪化させるからだ。スタンドが減ることで、生産量と販売量に差が出れば、市場で供給過剰が進む。ガソリンの店頭価格は一気に値崩れし、卸価格も下がって利益率に響く。製油所の稼働率にも影響するだろう。
要するに、スタンドが新たな環境に順応し、持続的に事業を行えるようなサポートなくして、元売りも生き残れない。まさしく、元売りは流通・販売戦略の大転換期に差し掛かっているのだが、各社の危機意識には大きな差がある。
先陣を切っているのはコスモ石油マーケティングだ。同社は11年度から、来る需要減少時代を見越して、顧客をつなぎ留めるためにカーリース事業である「スマートビークル」を開始。すでに累計契約台数は4万4151台を突破している。コスモエネルギーHDの桐山浩社長は「22年度までに新たに10万台獲得したい」と話す。
当時、業界内からは「元売りがカーリースなんて、うまくいくものか」と、懐疑的な目を向けられていた。しかし、スタンドで車をリースすれば、リースした顧客にとってスタンドは単なる給油のための場所ではなくなる。コスモはそれにいち早く気付いていたのだ。
その後、業界第2位の出光興産も17年度からカーリース事業に参入し、追随した。
その出光と合併予定の昭和シェル石油は、さらに一歩進めた取り組みをスタートさせている。
同社ではガソリン車の減少と環境対応車の普及は不可逆的であるという前提に立ち、スタンドの未来を描き始めた。具体的には、スタンドはクリーニングや宅配便の受け取り、外食、子育て支援といった生活拠点と再定義。そのための機能強化を図る方針だ。
現在、同社の全スタンドの立地や規模などを精査。どの店に対し、どのような機能を加えて競争力を上げるかをスタディー中だ。
同社の森下健一・石油事業本部常務執行役員は、「IT投資をしてスタンドをデジタル化し、将来的に特約店へのデータコンサルティングを提供する」と意気込む。
地方のスタンドを買収して
肥大化する元売り販売子会社
一方で、業界最大手のJXTGは、これまでの延長線上の施策のみで、ほぼノープランだ。
近年、流通・販売戦略に関してやっていることといえば、販売子会社のエネオスフロンティアを使って、各都市で閉鎖や事業撤退するスタンド網を買いたたき、傘下に収めているくらい。例えば、16年12月、大分県の有力スタンド事業会社である吉伴を買収。特約店17店、販売店12店を取得した。
吉伴の関係者によると、「販売力強化の施策を打つこともなく、以前のまま運営している」という。単に店舗を買いあさり、肥大化しているだけというのが現状だ。
昨今、市場で元売り販売子会社のシェアが上昇しているのも、こうした元売り各社による“バルク買い”が頻発しているからだ。