顧客である自動車ユーザーが求める燃料は、従来のガソリンや軽油だけではなく、電気や水素など種類が増える。そうした燃料多様化時代に対応できるエネルギー会社に生まれ変わるという考え方だ。転換がスムーズにできれば、特約店や販売店などのネットワークを維持できると踏んでいる。
だが、この大方針で、果たして十分なのだろうか。
自動車業界は今、「Mobility as a Service(MaaS。モビリティのサービス化)」の世界を見据えて、急ピッチで変革しつつある。MaaSの世界とは、多くの車がネットワークを介して通信が可能となり、それをベースにさまざまなサービスが生まれるものだ。
個人が所有する車はシェア(共有)されるようになる。個人がローンを組んで車を購入し、保険に入って車検に出し、スタンドで燃料を入れるという車との付き合い方は、根底から変わる。人々は車を買うのではなく、「移動サービスを買う」ようになるのだ。
日本でも、カーシェアリング事業など、モビリティサービスの存在感が日増しに高まっている。要するに、車のエネルギー源が多様化する以上の、もっとドラスチックな変革が起きているのだ。
スタンドと元売りは、早急に顧客の再定義を始めなければならない。車を保有する個人をターゲットにした商売では取り残される。燃料供給や車検、日々のメンテナンスといったサービスを提供する相手の顧客は、個人からサービス事業者へとシフトするはずだ。
スタンドでの個人向けメンテナンスサービスも、位置付けを再考せざるを得ない。例えば、「エネオス」を展開するJXTGエネルギーは、約2400店でメンテナンスサービス「ドクタードライブ」を提供している。同社は「今後も充実させていく」方針だが、すでに特約店からは「将来的には必要ない」との声が漏れている。
街中にあるスタンドが、これからも燃料を供給する場であり続ける保証はどこにもない。もはや、スタンドという業態の維持を前提に生き残り策を考えていては、MaaSの世界に乗り遅れてしまう。
コンビニと同じ土俵で戦い勝算はあるか
この結論には、別の視点からアプローチしてもたどり着く。
今後、規制緩和が進み、ガソリン供給事業の参入障壁が下がることは確実。そのとき、コンビニやプロパンガス事業者、JAグループなどの異業種がガソリン供給を担うようになる。つまり、誰でもガソリンを売れる時代になるのだ。