プロセスを丁寧に「見える化」する

 ひとつ例を挙げましょう。

 就任当初、「こども病院」の移転問題という難問がありました。

 福岡市立のこども病院というのは、全国に数ヵ所しかないような新生児や乳幼児など、小児専門の高度専門医療機関です。岡山より西には福岡市にしかありません。

 広い地域のニーズに対応することから、通常は国立や県立であり、市立のこども病院を運営しているのは福岡市が全国でも唯一です。それくらい福岡市の先人は、子どもを大切にするまちづくりを考えていたのです。ただ、この病院は老朽化が進んでいました。よって、早く建て替えないといけなかった、それを、今の場所で建て替えるのか、新たに埋め立てた別の場所に移転するかで、大問題になっていたのです。

 少し前に、東京都で話題となった「築地市場の豊洲移転問題」に構図は似ています。この問題が、福岡市では選挙のたびに議論を巻き起こし、二度も市長を代えるきっかけともなった大きな争点でした。

 私が市長になる少し前には「建設地を検討するときの資料を行政が恣意(し い)的に作ったのではないか」という疑惑が生じ、マスコミをおおいににぎわせていました。市の職員だけで都合のよい結論を導いたのではないか、というのです。

 市長に就任したときは、この問題に半年で結論を出さねばならないという局面でした。

 私は決断する材料を集めるために、関係者の話を直接聞くことにしました。

 それも関係者を役所に呼びつけるのではなくて、あえて現場に足を運び、その会話はマスコミにもすべてオープンにしました。埋立地についての理解を深めるため、九州大学に行って地震や地盤の専門家に話を聞いたり、こども病院に行って医師に話を聞いたりしました。連日テレビカメラや新聞記者がついてきます。

 すると、日々のニュースを通して、市民のみなさんにきちんと「プロセス」が見えます。専門家に話を聞き、医師の話を聞き、そのたびに必死に考える。どちらの意見にも一長一短がある。こうして、経緯のひとつずつをオープンにしながら、検討を進めていきました。

 また、行なわれたすべての会議を動画配信し、ネット上に記録をアップしました。これは、後日でも検証できるようにするためです。そこまでしたうえで、総合的に「こっちのほうがベターだ」という最終の結論を下し、その結論に至った理由も、これまでの動画を短く編集して自分の言葉で伝えました。

 このやり方は、納得度を高めるうえで、とても効果がありました。実際に、結論を発表した翌日の夕方のワイド番組は、街頭インタビューで7割の市民の方が結論について「賛成」と伝えていました。

 こうした手法は「パフォーマンスじゃないのか」と、当時はよく批判をされました。しかし同じ議論であっても、見えるところで行なうことで多くの人にその内容を伝えることができます。そういった工夫のできる人が、新時代のリーダーなのではないかと思います。

 いずれにしても、首長が「行政の延長線上のトップ」ではなく、「プロのリーダー」であるためには、こうした伝える工夫、努力というのはとても大切なことだと思っています。

 ちなみに、福岡市ではこうした「見える行政」を続けてきた結果、就任直前の2010年に41%だった信頼度調査の結果は年々上昇を続け、2017年には過去最高の77.7%にもなりました。

次回は、SNSを使った「伝え方」についてです。12/14公開予定です)