プロレスに学んだ「伝える工夫」

 では、「プロレス」ではどうでしょうか?

 プロレスは、一つひとつの技の動きが大きくてダイナミックです。しかも、技を決められたときはその痛さが、レスラーのリアクションから伝わります。だから、後ろの席でもリングで何が行なわれているのかがよくわかります。

 もちろんプロレスは、体じゅうミミズ腫れになるほど痛いですし、実際に命を落とす危険のともなうスポーツです。そのなかで、真剣に技を仕掛けたり、受けたりする一方で、観客の視線も踏まえたうえでの「伝わる工夫」ができるレスラーは、お客さんを呼ぶことができる本当のプロのレスラーです。ファンが心底、感情移入できます。

 ただ技をかければいい、ただギブアップが取れればいい、ということだけでなく、痛みや喜び、苦しみ、葛藤といった感情が伝わるレスラーこそが一流なのです。さらに「人生」まで伝えることができるレスラーは超一流です。

 プロレスは、このわかりやすい動きによって勝敗がはっきりとわかり、ファンから共感され勝敗に納得してもらえるのです。

 行政の出身者が市長や知事になると、多くの場合、総合格闘技のように試合を決めてしまいます。つまり、多くの観客は何をしているのかわからない。きちんと手続きを踏んでいるのかもしれないけれど、本当に内部を知っている玄人以外は、首長や行政が何をしているのかよくわからないのです。

 私は、行政のプロであるならば、今、行政が何をしようとしているのかを市民がわかるようにする工夫も大切だと思っています。マスコミを通して伝わりやすいようにテレビでの「画づくり」を意識したり、SNSを活用したりしながら市民に伝える工夫をする。そうでないと、最後のゴングが鳴った後の納得感が生まれないのではないでしょうか。

 プロレスは説得力が大切です。どうして今の技で決まったのか、ということをみんなが理解できる。だからレフェリーは、みんなが納得のできるスリーカウントをとれるのです。

 私が市長になって決断してきたプロセスというのも、総合格闘技的ではなく、できる限りわかりやすく、納得感を持っていただける形で進めてきたつもりです。