ただ、公平な視点で見ると、これは北京の大学生に限った現象ではなく、長年いびつな教育が行われた中国社会に広く見られる社会現象だ。

 例えば11月18日、蘇州市で行われた蘇州マラソン女子の部で、ゴール直前に最後の力を絞り出してアフリカの選手とデッドヒートを繰り広げていた中国人の女子選手・何引麗(ホー・インリー)が、コース上で2度もボランティアと思われる人物に中国国旗を手渡されるという事件が起きた。雨に濡れた国旗が重く、何選手はバランスを崩してしまい、失速して2位に終わった。

 議論の余地もない“妨害事件”に、中国のネット上では評価が真っ二つに割れ、「マラソンの成績と国旗、どちらが重要なのか」というくだらない問題へとエスカレートしてしまった。

 重くて国旗を落としてしまった何選手の行動を「国旗への侮辱」と捉え、批判する人も結構多かった。これに対し、何選手は中国のSNS微博で「国旗を投げ捨てたのではなく、腕がこわばって落ちてしまった。とても申し訳ない」という謝罪に追い込まれてしまったほどだ。

 文化大革命時代を思わせる時代錯誤的な発言も出てきて、思わず背筋に冷たいものが走った。

氾濫する「巨嬰」が
改革・開放を脅かす存在に

 ただ、幸いなことに、中国社会の健全さもまだ残っている。何選手の行動を支持する人も多く、国旗を強引に持たせようとする行為を「安っぽい愛国主義」と容赦なく批判している姿が見られるからだ。

 しかし、主催者である智美体育集団の責任者が、批判に対して、「ラストスパートをかける段階で、選手に国旗を持たせることはこのマラソン大会の慣例で、中国選手に対する礼儀でもある。これからもこの国旗手渡し行為を継続する」と答えている。

 国旗を武器に、愛国主義を濫用する主催者は、往時の紅衛兵を思い出させ、それこそまさに現代の「巨嬰」に映る。筆者は、「改革・開放路線の最先端を走ってきた蘇州に、そんな企業が安っぽい愛国主義をまき散らしているのを許してはいけない。今日のスポーツ大会の主催者としては失格だ」とメディアを通して批判した。

「巨嬰」の氾濫ぶりに、何かあると扇動されて暴走しやすいという中国社会のある側面を見ることができる。だが、そんな「巨嬰」は、改革・開放の流れを脅かす危険な存在になる恐れがある。日中間の交流、特に民間交流においては、こうした勢力の動向に十分な注意を払う必要があるといえる。

 その後、また「巨嬰」に関するニュースが入ったので、ここに追加しておきたい。

 1つは、「巨嬰」が中国の今年の流行新語トップ10にランク入りしたことだ。「巨嬰」がすでに社会現象というレベルにまでなっていることを物語っている。軽視してはいけない現象だ。

 もう1つは、広西チワン族自治区南寧市で行われたマラソン大会で、ゴールインしたアフリカ系のマラソン選手が記念撮影に強引に引っ張られ、転倒してしまったそうだ。主催者の「巨嬰」ぶりに憤慨を覚えざるを得ない。

(作家・ジャーナリスト 莫 邦富)