阿部勇樹
天皇杯決勝で勝利した浦和レッズの優勝を喜ぶ阿部勇樹 写真:JFA/アフロ

浦和レッズの12大会ぶり7度目の天皇杯全日本サッカー選手権制覇とともに、2018年の国内サッカーシーンが終幕を迎えた。ベガルタ仙台を1-0で振り切った9日の決勝戦に残ったのは、3バックの中央で先発フル出場して完封勝利に貢献した37歳の大ベテラン、阿部勇樹が試合終了直後に感極まらせた姿だ。これまでも幾度となく涙を流してきた元日本代表DFが、勝利の余韻が残る埼玉スタジアムのピッチで人目をはばかることなく涙腺を決壊させた3つの理由に迫った。(ノンフィクションライター 藤江直人)

寡黙で恥ずかしがり屋の阿部が
サポーターの目の前で見せた3度の涙

 輝く笑顔と歓喜の雄叫びがピッチの上で交錯していたからこそ、頬を伝う涙が異彩を放った。約5万人が詰めかけた埼玉スタジアムの夜空に、12大会ぶり7度目の天皇杯優勝を告げる主審のホイッスルが鳴り響いた直後から、浦和レッズの阿部勇樹の涙腺は決壊しかけていた。

 先発メンバーだけでなく、ベンチ入りした18人の中でも最年長となる37歳。ひとたびピッチを離れれば驚くほど寡黙で、極度の恥ずかしがり屋と自負するベテランの涙を公の舞台で見るのは、この4年間で実は3度目になる。場所はすべてホームの埼玉スタジアム。最初は2015年3月4日の夜だった。

「まず勝たなきゃダメなんだよ!オレたちやるから!だから一緒に戦ってよ!」

 何かに駆りたてられるかのように、真っ赤に染まったゴール裏のスタンド前へ阿部は迫っていった。拡声器越しの声が届かないと感じるや、スポンサーボードを乗り越えてスタンドの真下まで移動。右手の人さし指を突き上げながら、思いの丈を訴えるその目は涙でにじんでいた。

 当時のレッズは公式戦で3連敗を喫した直後だった。2014シーズンもJ1制覇に王手をかけながら、最後の3試合でまさかの大失速。ガンバ大阪に逆転優勝をさらわれていた。2年越しの失望感を募らせたサポーターからは、激しいブーイングに混じって怒声を浴びせられていた。

「とにかく、1勝しなきゃ何も始まらないんだよ!次は絶対に勝つから!」

 3日後の3月7日にはJ1が開幕する。試合後の挨拶を終え、ロッカールームに戻りかけていた選手たちから離れ、一人でスタンド前へ駆けつけた阿部が突き立てた人さし指には「まずはひとつ勝つ」ことと、レッズに関わるすべての人間が「ひとつになる」という2つの決意が込められていた。