がんは誰でも発症し得る致死的疾患ですが、決して不治の病ではありません。適切な治療によりがんの60~70%は根治に至ります。ただし、そのためには原則、早期に発見して手術で完全に取り除くことが必要不可欠です。
ところが、前立腺がんは早期発見されても手術などの積極的治療を行わずに「監視療法」という経過観察が選択されることがあります。他のがんと同様に命に関わる疾患なのですが、前立腺がんはその増殖速度が遅く、しばらく放置しても問題がないことがあるからです。
しかし、たとえおとなしいがんであったとしても命に関わるがんであることに変わりありません。発見してもがんを放置するという治療法に、違和感を覚える方が多いのではないでしょうか。
前立腺がんの
「10年相対生存率」は90%以上
国立がん研究センターのがん情報サービスの報告によると、高齢化による影響を除外した年齢調整罹患率では、男性の主要部位の多くのがんは横ばい、ないしは漸減傾向にあります。ところが、前立腺がんのみ急増しています。
一方、年齢調整死亡率を見てみると、前立腺がんは他のがんと同様に漸減傾向にあります。また、「5年相対生存率」を見ると、前立腺がんは上昇傾向が顕著で、生存率が100%に迫る勢いです。
全がん協加盟施設の生存率共同調査による「10年相対生存率」という比較的長い期間の生存率でも、前立腺がんは90%以上と良好な結果となっています。
前立腺がんも他のがんと同様、じっと寝ていて治る病気ではありません。治療しなければ、前立腺がんは徐々に進行して転移を来し、痛みや苦しみにさいなまれることになりかねません。
そして、前立腺がんは、手術症例に限ると10年相対生存率は集計上100%になっています。すなわち手術をすれば確実に治るといえるわけですから、前立腺がんと診断されたのにあえて放置する監視療法が選択されることがあるのはなぜでしょうか。