手術によるQOLの低下は避けられない

 前立腺が仮に機能しなくなったとしても命に別状はありません。しかし、その果たす役割は排尿や性機能など、大切な生理機能に深く関わるものです。

 前立腺の役割は、大きく3つに分けられます。1つは、排尿・射精の調節です。尿と精液はどちらも尿道を通って排出されますが、両者が同時に出てくることはありません。前立腺の周囲や内部の筋肉によって排尿と射精は巧みにコントロールされているからです。

 2つ目は精液の生成です。前立腺から分泌される前立腺液は精液の30%を占め、弱アルカリ性です。精子が弱酸性の女性の生殖器の中でも活動できるように調節されているのです。

 3つ目は、男性としての象徴です。前立腺は男性ホルモンの影響を受けて働いています。勃起や射精という男性独自の現象に関与しており、前立腺を含む生殖器が正常に機能することが男性としての自信の支えになり得ます。

 前立腺は膀胱の真下に隣接するクルミ大の小さな臓器で、精液の7割をつくる精嚢(せいのう)がその後ろに隣接しています。また、膀胱から出た尿道や精嚢から尿道に繋がる射精管は、どちらも前立腺の内部を貫いて走行しています。

 そのため、前立腺摘除手術をする場合には、前立腺だけでなく、精嚢や射精管および膀胱頚部の一部を切除するのが一般的です。腫瘍の周囲にがん細胞が広がっていることがあり、病巣が前立腺内部に多発している可能性もあるため、腫瘍だけをくりぬくような切除ではがんを取り残すリスクがあるからです。

 さらに、この手術では、解剖学的に尿道を合併切除せざるを得ません。よって前立腺を切除した後に膀胱と残った尿道をつなぎ合わせる必要があります。また、病変の広がり具合にもよりますが、前立腺のすぐそばに存在する勃起に関わる神経も合併切除せざるを得ないことがほとんどです。

 それにより、手術後に排尿障害(尿漏れ)や性機能障害(勃起不全)が必ず発症します。尿漏れの症状は一過性であることが多く、性機能障害に対する治療薬もありますが、手術によって生活の質(QOL)の低下は避けられず、男性としての尊厳は大きく損なわれることになります。

前立腺がんの治療法とは?
「監視療法」のメリット、デメリット

 前立腺がんは、進行が遅く、生存率が高く、手術などの治療に伴う犠牲や負担が大きいために、「すぐに治療を始めない」という選択肢があります。腹腔鏡下手術やロボット手術など低侵襲手術も普及していますが相応の後遺症は回避できません。