なぜ、地方は衰退し続けるのか?
20年にわたりビジネスで地方を活性化し続けてきた地方創生のトップランナー・木下斉氏が「衰退の構造」を斬る。
初のストーリー形式となる新刊『地元がヤバい…と思ったら読む 凡人のための地域再生入門の発売記念連載。

「衰退する地域で、どのように事業を立ち上げればいいのか」

これは、私が地方でもっともよく耳にする質問のひとつです。

しかし、地方にだけ何か特別なビジネスルールがあるわけではありません。日本全体で人口が減っている今、地方でのビジネスの立ち上げを考えることは、今後のビジネス分野全体を考えることにもつながります。今回は、人口減少社会におけるビジネスの基本となるルールについての3つの基本をお伝えします。地域に関わる人だけでなく、ビジネスマン全員にも関わりのある内容となっています。

(1)資金がないなりの「戦い方」を選択する

――地域で事業を起すときに、「先立つものがない」という声が多く聞かれます。『凡人のための地域再生入門』でもお金に制約がある中での挑戦方法について書かれていましたが、木下さんはどのように考えられているでしょうか。

私がよく疑問に思うのは、資本がないにもかかわらず、いきなり大規模なビルをリノベーションしてホテルを始めようとしたり、顧客が獲得できていない状況で大規模な厨房設備を整えようとしたり、改修費費用がかかるまちの歴史的建造物を取り扱おうとしたりと、設備投資の必要な事業に挑戦しようとする人がかなりの数いることです。

簡単に言えば、「お金がない」と言う人は、そもそも「お金がかかる」事業から始めようとしているところに問題があります。お金がないのであれば、ないなりの戦い方を選択すべきです。

木下 斉(きのした・ひとし)
地域再生事業家
1982年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。一橋大学大学院商学研究科修士課程(経営学)修了。一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンス代表理事。内閣府地域活性化伝道師。高校在学中に早稲田商店会の活動に参画し、高校三年で起業。全国各地で民間資本型の地域再生事業会社を出資経営するほか、地方政策提言ジャーナルの発行、400名以上が卒業して各地で活躍する各種教育研究事業を展開している。

たとえば私は、初めての地域では、以下のポイントを意識して仲間と事業に取り組みます。

・負債を伴う設備投資がないこと
借金したり投資家から資金を調達してまで、いきなり大規模な設備投資を伴う事業からスタートするのはリスクが高すぎます。たとえば、よく地方での事業案として挙げられるゲストハウスにしても、宿ビジネスは今は各地で注目され多くの人が参入している市場ですから、いきなり飛び込んでしょぼい宿をつくっても、見向きもされません。

かといって、品質相応の安い宿代で商売するならば、投資回収期間が超長期になって儲かりません。設備を持つ前にできることはいくらでもあるわけで、宿が全国の地方に増加している今こそ、アクティビティ中心のビジネスに注力するほうが得策です。

airbnbのエクスペリエンスであったり、ツールはいろいろとあるわけですから。

・在庫がないこと
在庫を持つような特産品開発も、はっきり言ってナンセンスです。

「モノからコトへ」と言われている時代に、いきなり在庫を抱えるような企画からスタートしたら玉砕します。

その前に、自ら持っているスキルを活かす場をつくることだってできるわけですし、定期的に開かれる小規模なマーケットに出店し、売り切り前提からスタートする道だってありえるわけです。それなのに、なぜかいきなり通年での事業を前提として在庫を持とうとする事業者が多すぎます。同じ在庫を持つにせよ、最低でも試験販売的な取り組みは行ってからにすべきです。

・粗利率が高いこと(8割程度)
商売には、「最初は安く始め、後から高くしていく」という選択肢はありえません。最初から高いものは高いし、安いものはいつまでも安い。

だからこそ製造工程から自分で取り組んだり、自分にしかないスキルを提供することで付加価値を高め、粗利率が高い商売にしなければなりません。

そうすれば、販売数や販売量にこだわらずとも、手元に残るお金は大きくなります。

ふつうの小売であれば、粗利率は2~3割と低い場合が多いですが、実際には粗利率8割を確保できるものに力を入れるべきです。また、どこでも買える、オリジナリティのないものを売ってはいけません。大手のチェーンにはどうしたって購買力で勝てないからです。

・営業ルートが明確なこと
以外と軽視されているのが、営業です。

投資は、きちんと「誰にどういう形で営業し、月にどの程度の収入が得られるのか」を決めてからするのが鉄則です。

それなのに、投資して、在庫も抱えながら、粗利も安い商売を始めるのにもかかわらず、営業先そのものが曖昧で、下手したら営業先ゼロのような、目隠し運転に近い状況だったりするケースが跡を絶ちません。それでは成功確率は低くなるのも当然です。

ビジネス分野では当たり前の話を、地域だからと変に歪めて始めるから成果が出ないのです。投資が限定的で在庫がなく、利益率が高くて定期課金可能な事業をしっかりやれば、基盤は作れます。何も、そんなに難しく考えることはありません。

ストーリー形式の本作でも、使わなくなった自宅の一部をDIYでカフェに作り変え、什器なども廃品をリメイクして使うことで最低限の投資で店を展開する取り組みに触れました。お金がないことを言い訳にしない人は、お金がないからこそできる戦い方をしています。

まずは自己資金で小さく、すぐに始められる事業に取り掛かることが可能なことから始めるわけです。たとえば、地方にいって田畑を借りれそうなら、自分が都会に住んでいたときの友達や親の友達に産直で作物を毎月定期課金で販売する事業をやるだけでも、基盤収入は確保できます。家庭菜園でさえメルカリで野菜売って現金化している人もいるわけで、いきなり大きな投資をせずともできることは多々あります。

小さな事業を徐々に大きく育て、一定の成果を収めて信用力が出てくれば、地元金融機関も次なる事業には融資をしてくれたりします。仲間からも資金を集めやすくなります。

にもかかわらず、人によっては何の実績も残していない地域で初めて事業に取り組むのに、大きな事業を構想し、「金融機関がお金を貸してくれない」ということを愚痴り、結局は役所にいって補助金依存の事業に収まってしまう人がいます。残念なことです。

(2)スキルだけでは飯は食えない

――よく、確実に稼ぐために「手に職を」という気持ちから資格等を取得しようとするケースを耳にしますが、これからの社会でも、そのようなアプローチはまだ有効なのでしょうか。

実際のところ、重要なのは営業力です。いくらスキルがあってもマネタイズできるかどうかは営業力次第。いくら資格を持ってたり、勉強していても、それを活かせる先がなければ事業にはなりません。

以前私が宮崎に行った際、もともと写真を撮っていたため観光協会に入ったはいいが、今はまったく写真の仕事はしていない、という方がいらっしゃいました。これは、大変もったいないわけです。

観光協会側にも問題あるのかもしれませんが、具体的な提案をしない側にも問題があります。そこのイベントではせっかく数名の経営者がいたわけですから、「僕、宮崎県内であれば、写真関係の仕事はいつでもお手伝いできますよ」と、登壇の仕事が多い人にがっつり売り込めばいいんです。でも、それをしないんですね。

何事も営業力、提案力です。

図々しいと思われても、自分なりにまずは営業してみないといけないわけですが、意外とこれをできる人が少ない。

本書でも触れましたが、新たなプロジェクトを立ち上げるときは常に「逆算営業」が必須です。まず営業し、顧客が見えている状態で事業を始める。つまり、投資する前に営業しろという話ですね。

カフェをやりたいなら、まずはスタンドのコーヒー店を週末のマーケットなどで出店してみる。営業を頑張り、固定客をそこで確保できたならば、固定費のかかる実店舗をオープンする、という順序でやれば、いきなり開業するよりは失敗する確率は劇的に減るわけです。

シェア店舗を作るような取り組みも同じです。

入居する事業者さんを募集、選抜して、家賃を決め、仮契約を終えて、彼らの意見なども踏まえながら最後に内装などに投資する。こうすれば、想定される家賃収入から全体の投資回収計画が組み立てやすいし、先に工事するよりも内装も入居者に寄り添ったものにできるわけです。しかし、実際には先に投資して、できあがったものを営業する流れになってしまっているものも少なくない。

まずは、営業なんです。一に営業二に営業、とにかく営業をしたうえで、投資をする。お金を使う前に、まずはお金が入る収入源を決めておくという当たり前なことですが、意外とみんなお金を使うほうを先にやりがちです。

(3)犠牲者精神を捨てよ

――新たに事業を立ち上げるほかに、既存の組織や事業を立ち上げるケースも地方では多く見られます。そのような方にアドバイスはありますか?

事業には「組織」、そして実際に事業を営む場所としての「地域」が必要となるわけですが、あくまで目的は事業をうまくいかせることです。

組織、地域はその手段にすぎないのですが、実際にはそれらに妙な使命感を抱えているケースが少なくありません。

犠牲者精神というか、潰れそうなものをそのままどうにか維持することに美学を見出してしまっている人を、今まで何名も見てきました。中には最初から「それって無理ゲーだし、そもそもあなたが本気でやる必要なくない?」という課題もあるわけです。

その難題に変に燃えて、けれど、実際には小手先でどうにかなるはずもなく、割に合わないことをいつまでも続けてしまい、疲弊して体を壊したり、精神をおかしくしてしまう人がいます。これは本当に不幸なことです。

実際にあった例をもとに説明しましょう。とあるまちにある食品加工産直センターの再生プロジェクトが立ち上がりました。経営が傾いているため、その再建に民間人を登用するとのことです。採用された方は、かつて1億円ほどあった売上が6000万になっているような右肩下がりの状況にもかかわらず、「売上を毎年10%ずつ改善する」ことを求められていました。

しかし、そこの組織は案の定補助金漬けで、営業努力なんてまったく考えていない。トップは、何をやるのも「お金はないから役所から出してもらわないといけない」という話しかしない。働いているのもおばちゃんおばあちゃんばかりで、片手間のパートでやっているだけだから、当然無理がきかないし、そんなに商魂があるわけではなく、そこそこ働ければよいと割り切ってやっています。

その状況で外部からの民間人が1人採用されてどうにかなるかといえば、99.9%の確率でどうにもなりません。人も減る、競争も激化する中で、稼ぐ気のないトップと、働く気があまりない従業員をそのままにして毎年10%の売上を実現することは困難です。

むしろ、売上はそのままに保ちつつ、売り方を変えたりして利益率の改善に務めるほうがまだ現実的でしょう。だけど、それもトップの交代とスタッフの切り替えくらいの人事権が渡されない限り、無理ゲーには変わりありません。

「どうにかしたい」というその方の気持ちはわかるのですが、貴重な人生の時間、縁もゆかりも無く、かといって本気で現状を変える気もない組織で奮闘するのはあまりにも悲惨です。

もしその地域をどうにかしたいのであれば、その組織で犠牲者になるより、別の組織を立ち上げて、利益がちゃんと出るように事業を回し、その様子を見せるほうがよっぽどためになるでしょう。

既存組織、仕組みを変えるのは、新たに何かを作り出すよりはるかに難しい。抵抗勢力と戦ったり、やる気のない人をモチベートすることに膨大な時間をかけるくらいなら、新しいことを、新しい組織でやるほうがはるかに簡単です。

組織の維持を目的化し、「仕組み」の犠牲者になってしまわないように、無理ゲーだと思うものは全力で回避して、どうにか成果を出すための取り組みに向けて力を使ってほしいところです。

時間は有限です。

私は、人はそう簡単に変わらないものだと割り切れば、道は拓けると思っています。わからない人に何かをわからせようとか、凝り固まった考え方を変えさせようなんて思うほうが、ある意味では傲慢です。三つ子の魂百まで。長い人生で得てきた考え方はそんなに簡単に変わりません。だからこそ、違うやり方が実現できることを、口だけではなく実際に「見せる」ことは大切です。

これらの「地方のリアル」はなかなか表に出ず、また断片的な情報だけを伝えてもなかなか解決されないため、新刊『地元がヤバい…と思ったら読む 凡人のための地域再生入門』には物語調で、時系列に沿って、地域を再生する本当の方法を記しました。

地域に関心がある人だけでなく、人口減少社会においてビジネスを開発していくすべての人に読んでいただきたいです。