地方が衰退するのは人口が減るからじゃない。「稼ぐ視点」が欠けているからだーー。

地方におけるビジネス分野の最前線で約20年奮闘してきた地域再生事業家・木下斉氏は、そう指摘する。

どうすれば、地方は稼げるようになるのか? 新刊『地元がヤバい…と思ったら読む 凡人のための地域再生入門 』の発売を記念して、福岡の名書店ブックスキューブリックでそのヒントが語られた。前中後編の3回に分けてお送りする、第2回。前編はこちら

日本の飲食は一大産業になるポテンシャルを秘めている

大井実(以下、大井) 前回は、地方の未来のヒントはヨーロッパにある、というお話を伺いました。

イギリスのリバプールなど、産業革命のとき工業で栄えた都市は、その後一度廃れた後、今は観光や飲食などのライフスタイル型産業で稼いでいるんですよね。

木下斉(以下、木下) そうです。だから日本も、もう工業一辺倒の考え方を捨てて、次の産業を育てていくべきなんですよ。というか、すでに飲食でいえば素晴らしい蓄積があるわけです。

大井 美食のまちと言われるパリだって、いまや「日本人がいないとパリのレストランは成り立たない」と言われるほど、多くのシェフが活躍しているわけですしね。

「過去、うまくいっていなかったこと」が次の時代の強みになる

大井 僕、こないだ宮崎に行ったんです。宮崎なんてね、可能性に満ちあふれているなと思いますよ。

木下 現地の人がそのポテンシャルに気づいていないんですよね。「うちは陸の孤島だ」とか「大きな産業が何もないから」とか言ってしまう人がまだいる。たしかにこれまではそうだったかもしれないけど、未来は過去とは違う。そう認識すれば、過去のマイナス自体が逆転してプラスの価値になることに気づけるはずです。

大きな工場がなかったということは土地の汚染がなかったということ。そんな土地は、現代ではもうレアになっています。過去うまくいっていなかったことが、一巡して次の時代の強みになるんです。

木下 斉 
地域再生事業家
1982年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。一橋大学大学院商学研究科修士課程(経営学)修了。一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンス代表理事。内閣府地域活性化伝道師。高校在学中に早稲田商店会の活動に参画し、高校三年で起業。全国各地で民間資本型の地域再生事業会社を出資経営するほか、地方政策提言ジャーナルの発行、400名以上が卒業して各地で活躍する各種教育研究事業を展開している。

大井 といっても、宮崎の人にそういう話をすると「いや、無理でしょう」と気の抜けた返事が返ってくるだけで。

木下 うーん、工業偏重の発想が長く続いたから、農業の価値が低く見られているのかもしれません。でも、九州の農業産出額って、関東圏に次いで日本で二番目に大きい。世界最大の人口集積がある東京圏の都市型農業と伍するぐらいの生産高が今もあります。だから、もっといけるはずです。

「安くたくさん」が地方を滅ぼす

木下 結局のところ、「安くたくさん」という、物が足りない時代によしとされた発想が、いまの地方の発展を邪魔していると思います。農業や畜産だって、本来ならいくらでも付加価値を高められるのに、「安くたくさん」という発想しかないから、儲からないと決めつけてしまう。この価値観をまずぶっ壊したほうがいい。かつてのように人口が爆発的に増加して、飢餓に苦しむ人が多数いた時代は、安くたくさんものを出すことが地方の役割でした。だけど、この飽食の時代に、やたらめったら「安くたくさん」をやろうとするから、辛くなって、仕事を継ぐ人が出てこない。

もちろん「安くてたくさん」もいいんだけど、「安くてたくさん」にこだわるからこそみんな貧乏になっているということに気づかなきゃいけません。安く売るから、働く人の給料も安くなるわけで。

もちろん、全部高ければいいってわけじゃないですよ。ミシュランの星付きレストランがたくさんあるサンセバスチャンだって、気軽なバルに行けば手頃な値段です。でも、さっきの料理人の育成の話に戻れば、高いお店もないと、修行して一生懸命自分に投資をしてきた人が来ないですよね。投資、回収できないですから。結局、多様性が大事だという話です。

大井 でも、地方の「安くたくさん」幻想は根強いものがありますよね。

木下 そうそう。たとえば漁業でも、「安くたくさん」売る発想のままだから乱獲が止まらないわけです。結局は水産資源がなくなって、さらに貧乏になってしまう。負の連鎖です。もし付加価値を上げられるなら、少量でも十分稼げる。水産資源保護も、結局のところはお金の問題なんですよ。

その「稼ぎ」を生むためにも、食という産業はすごい大切です。観光業は、地元の土地、海からとれたもので価値を作り出して外貨を獲得する産業だから、いちばん地元の儲けになる。だから食を取り巻く産業は地域にとって大切なんです。

大井 そうですよね。

木下 しかも食の分野で働いている人は当然そのまちに住み、お金も落とします。地域の中で重層的にお金を回していく産業である飲食業が、地方の中でおまけのように扱われているのは非常に大きな問題だと思います。

付加価値を、地元の中に根付かせる

大井 僕は長くイタリアにいたんですが、あそこには「イタリア料理」なるものは存在しないんです。あるのは「郷土料理」だけ。その地域で採れたものを料理し、食べる。生産者とレストランが循環的につながる仕組みを作ろうという意志がはっきりあります。

大井 実
1961年、福岡市生まれ。同志社大学文学部卒業。東京、大阪、イタリアなどで、ファッション関係のショーや現代美術の展覧会などの企画・制作に携わった後、2001年、福岡市のけやき通りに新刊書店ブックスキューブリックを開業。06年、いまや全国各地に広がるブックイベントの先駆けとなった「ブックオカ」を有志とともに立ち上げ、実行委員長を務める。08年に、カフェとギャラリーを併設する箱崎店をオープン。16年には同店内にベーカリーを開設。トークイベントや展覧会を次々に開催しながら、本を媒介に、人が集い、町と人をつなぐコミュニティづくりへと活動の枠を広げている。

木下 付加価値が地元に定着することが大事なんですよね。

たとえば、シャンパンの産地でもあるフランスのエペルネは、国内で一二を争うほど平均所得が高いエリアなんですよ。でもワインって、実際にはぶどうを搾って醸造して売っているだけとも言えるわけです。こんなこと言ったらフランスの人にすごい怒られそうだけど(笑)。

なぜ、彼らの所得がそんなに高いのか? それは、商品の仕入れ元がエペルネの「土地」だからです。土から生まれた作物が、様々な技術によって大きな付加価値を生む。工業であればすべての鉱工業を地元で抱えることは稀ですが、ワインなどの農業加工商品はその地域で一貫してできるから資金の流出がない。

大井 彼らは「土地」を重視し、産地をすごい厳しく管理してブランド化していますよね。フランスのシャンパーニュ地方で採れたものしかシャンパンと呼んじゃいけないし、イタリアにも「DOCG」を最上級とする、ワインの格付けがちゃんとある。

木下 そういうことなんですよね。逆に日本は、なんでも一緒にしちゃう。

九州の例で言えば、知覧で採れたお茶だけを「知覧茶」と呼んでブランド化できていたのに、知覧が南九州市へと合併したとたん、南九州市で採れたものすべてが「知覧茶」になっちゃったなんてケースも。「うーーーん、そこはもっと、旧知覧だけのブランドにすべきじゃないのかな」、と思わされました。絞っていって価値を上げるんじゃなくて、全部ごっちゃに入れて、平均値で売っちゃう。違うんですよ。値段は、どんどん上げていくものなんです。

ボルドーワインはボルドーでしかとれないし、ブルゴーニュもそうだし、シャンパーニュもそうだし、イタリアならバローロとかもそう。一定の閉鎖性を持つからこそブランド価値が成立する。みんなが参入できないからこそ希少性が高まる。そして付加価値につながるんです。

人気があるだけでは、1円にもならない

木下 先日、北海道のとあるウイスキー工場に行きました。そこでは「マイウィスキー」が作れるんですよ。自分専用のボトルを10年間貯蔵してくれて、なんとたったの1万8000円というのです。驚きました。

それで、現地の人は「いやあ、忙しいんです。とても人気があって、倍率が何十倍にもなっちゃって」とお話されるんですね。

「いや、違うでしょ!」と。本当なら、その倍率に即して値段を上げなきゃいけないんですよ。

大学受験ならまだ受験料が入ってくるからいいですけど、結局1円も生んでないわけです、その何十倍もの倍率は。「値段上げましょうよ」ってはっきり言いましたけど、そういう意識はなかなか地方のものづくりをする方と共有しづらい。

値上げに消極的になってしまい、ちょろちょろっとしか値段を上げないんですよ、日本の企業って。値上げは批判されるのではという恐怖感もあるのでしょうが、価値がせっかく認められているのに、もったいないなと思います。

安くたくさん売ってしまうので、従業員の方の給与もあまり上がらない。せっかく価値のある産業があっても、マネタイズが二の次になってしまう。結果的に、ジャパニーズウイスキーはメーカーではなく、流通や小売店が儲けてしまっています。希少になりますからね。海外で頼もうと思うとびっくりするような価格になっています。

たとえば、台湾に、カバランという高級ウィスキーがあります。もうね、どんどん値上げしていますよ。金額的に、スコッチに全然負けない。輸入品並みの価格で台湾のお店で売られているわけです。それに比べて日本のウィスキーは「世界三大ウィスキーです」とか言いながら、まだまだ全然安いんですよ。たとえば原価800円のウイスキーなら、8万円で売るくらいじゃないといけません。何事も営業です。地方にはもっと商いの余地が残されています。

大井 発想から変えていかなければいけませんよね。

ブランディングとは値段を上げること

木下 はっきり言って、日本のブランディングには間違いがたくさんあります。ブランディングは、パッケージのデザインを変えて高級に見せることじゃない。プライシング、値付けが大切なんです。

原価がいくらだから販売価格がいくら、というのは工業的発想です。高級バックだって、原材料の価格を知ったら嫌になるわけですが、それでも日本人はこぞってフランス製の高級バックを買うわけです。それは単に品質というだけでなく、高い値段によって形成されているブランドがそこにあるから。

宗教と一緒で、高いものには、購入者が勝手にストーリーをつけて、それだけの価値があるのだとみんなに広めてくれる効果もあります(笑)。もちろん内容が伴っていなければいけませんが、プライシングが生み出した幻想もあるということを忘れてはいけません。

大井 結局、日本人は思考が大量生産大量消費の時代のままなんですよね。

木下 「安くたくさん」つくって、値段を下げる。完全な「デフレ脳」ですよ。

だから、どんどん貧しい方向に追い詰められていっちゃう。むしろこれを逆に回す発想をし、それをどう営業で売っていくか。そこに向き合うことが求められています。(続く