地方が衰退するのは人口が減るからじゃない。「稼ぐ視点」が欠けているからだーー。

地方におけるビジネス分野の最前線で約20年奮闘してきた地域再生事業家・木下斉氏は、そう指摘する。

どうすれば、地方は稼げるようになるのか? 新刊『地元がヤバい…と思ったら読む 凡人のための地域再生入門』の発売を記念して、福岡の名書店ブックスキューブリックでそのヒントが語られた。前中後編の3回に分けてお送りする。

工業はあらゆる国を「通過」する

大井実(以下、大井) 木下さんは、日本の各地を飛び回られているだけでなく、イギリス、スペインのバスク、フランスと海外もよく回られていますよね。最近だと、美食で有名なサンセバスチャンにも行かれたんでしたっけ。

木下斉(以下、木下) ヨーロッパのまちづくりは、日本の地方にとっての「ヒント」がいろいろ転がっているんですよ。かつて工業で栄え、その後廃れるという衰退のサイクルが日本より先に来ているわけなので。工業は、あらゆる国を「通過」していくんです。

木下 斉
地域再生事業家
1982年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。一橋大学大学院商学研究科修士課程(経営学)修了。一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンス代表理事。内閣府地域活性化伝道師。高校在学中に早稲田商店会の活動に参画し、高校三年で起業。全国各地で民間資本型の地域再生事業会社を出資経営するほか、地方政策提言ジャーナルの発行、400名以上が卒業して各地で活躍する各種教育研究事業を展開している。

大井 「通過」?

木下 ほら、産業革命はヨーロッパで興り、次にアメリカに舞台が移り、そこから日本にやって来た。今は中国、そして今後はアジアの別の国々へ向かっています。

大井 たしかに。昔は粗悪品だったmade in Japanがいつしかブランドになったけど、それがいまは「通過」して、台湾や中国、インドに中心地が移ってるんですよね。

木下 そうです。たとえば、イギリスのリバプールは奴隷貿易という黒い歴史を経て、産業革命の時代にマンチェスターからの綿花の輸出によって、人口100人の小さな漁村からイギリス第二の都市にまでなったわけです。

今は美食で有名なサン・セバスティアンを擁するスペインのバスク地方も、かつてはスペインの産業革命の中心都市のひとつでした。

大井 それが、時代の波が通過し、衰退してしまった。

木下 そうです。でも、衰退しきったからこそ、別の挑戦をし、今、もう一度面白くなってきてるんですよ。同じく製鉄や造船業がガンガン栄えていたバスク州の中心都市ビルバオも、工業が衰退し、辛い時代を経て、今はポスト工業型の産業で復活しています。

文化、芸術、飲食などライフスタイル産業の集積を基礎にした都市の再生

スペイン・バスク自治体にあるビルバオのグッゲンハイム美術館

大井 ここは、どこですか?

木下 スペイン・バスク自治体にあるビルバオのグッゲンハイム美術館です。

大井 ああ。僕も、一時期イタリアにいたのですが、ヨーロッパは、小さなまちにも必ず劇場があったり、オペラ座があったりして、美術館も結構充実していますよね。で、オペラを観た後にいいレストランでご飯でも食べようというライフスタイルが当たり前に存在する。

大井 実
1961年、福岡市生まれ。同志社大学文学部卒業。東京、大阪、イタリアなどで、ファッション関係のショーや現代美術の展覧会などの企画・制作に携わった後、2001年、福岡市のけやき通りに新刊書店ブックスキューブリックを開業。06年、いまや全国各地に広がるブックイベントの先駆けとなった「ブックオカ」を有志とともに立ち上げ、実行委員長を務める。08年に、カフェとギャラリーを併設する箱崎店をオープン。16年には同店内にベーカリーを開設。トークイベントや展覧会を次々に開催しながら、本を媒介に、人が集い、町と人をつなぐコミュニティづくりへと活動の枠を広げている。

木下 そうなんですよ。工業の後に、文化や飲食といったようなよりよい時間の過ごし方を追求する「ライフスタイル」型の産業が栄えて、まちの中心産業になっています。それが観光産業にも結びつき、外貨獲得につながって、地域が栄えていく。ものを輸出して稼ぐ産業から、サービスによって稼ぐ産業へとシフトしているわけです。

一方、日本の地方は産業といえばいまだに工場誘致だけだと思っています。まだまだ「工業の枠」でしか考えられていないんです。明治から150年それでやってきたわけだからしかたないとも言えますが、まだまだ飲食や宿泊業などのサービス産業は低く見られている。これは、地方の経済団体を見ていても感じます。

これは、グッゲンハイム美術館のあるビルバオの市街地における夜の写真です。車が通れないような道をつくり、路面でも飲食できるようにしたりして、めちゃくちゃ賑わって、ひとつの「産業」になっている。ヨーロッパには、こんなまちがたくさんあるんですよ。

ビルバオの市街地

同じ地域が二度続けてイノベーションで勝ち抜くことはできない

木下 前提として、これからの日本が、かつてと同じ工業でもう一度栄えることは難しいはずです。だって、今からITとかイノベーションとかに力を入れても、アメリカの西海岸にはなれないし、アジアでいえば中国の深センに勝てるはずがない。

深センだけで、1253万もの人がいるわけです。そこにヒト・モノ・カネがガンガン突っ込まれている。それは、かつて日本がエレクトロニクス、自動車や造船で勝っていた時代に「通過」してきた道なわけですよ。その時代、その土地にたまたま適合していても、工業は必ず「通過」する。ずっと続くことはありません。

大井 工業は、結局人件費の安いところにシフトしていきますものね。そして、その後には工場跡地が残るだけ。

木下 だから、もう過ぎ去ったものを今から追いつき追い越せと言っても、無理なんですよね。同じ分野で2回イノベーションが起きる国って、ほとんどないんです。

1970年代に、日本は製造業を中心に、オートメーション化で勝ちました。労組が強くてオートメーション化ができなかった当時のアメリカを差し置いてね。アメリカも、たとえば自動車でいえばフォードが、あとはGMがイノベーションを起こしたけども、同じ工業で2度目はなかったわけです。

GEだって同じで、2000年あたりに工業から金融などにシフトしたけど、20年経過して今はまた苦戦している。成功体験が足枷になり、後発組の企業に追い抜かれていく。まさに、「イノベーションのジレンマ」ですよね。

だから、日本も次の芽を次の畑で育てなきゃいけない。今からシリコンバレーを目指しちゃダメなんですよ。シリコンバレーだって、2度は生まれませんから。あのときあの状況で、偶然にもあそこに様々な大学、先端的な研究所があり、計算機などが揃っていた状況にビル・ゲイツや、スティーブ・ジョブズなどの若者が気づいて、行動したから今のシリコンバレーが成立したわけです。

かつて、ソニーを目指してもアメリカにソニーが生まれませんでした。だから、参考にはしつつも、別のアプローチをとることで新たな成功を生まないといけないんです。

大井 グーグルのようなプレイヤーも出てきた今、もうここからは勝てない、と。

木下 でも、そのGAFAですら、最近ではEUを筆頭に、もはや「規制を受ける側」になってきたわけです。だから、次のFacebookはもう出てきません。今から作っても、最初から規制対象に入っちゃって自由にできないから。だから、やっぱり「同じイノベーションは2度起きない」んですよ。

大井 福岡市は、今まちを「IT特区」にする計画を進めていますが……。

木下 まあ、それはそれでべつにやればいいんです。やるなという話ではない。ただ、それだけだと困るという話で。

むしろ、福岡市が今花開いているのは、かつて日本が工業で稼ぎまくっていた時代に、「これからはサービス産業だ」と舵を切ったから。だからITだけでなく、その次を見据えてやっていってほしいところです。

ヨーロッパに話を戻すと、数百年続いている産業ハイテク都市はありません。先ほど触れたイギリスのリバプールも、イギリス第二の都市となったあと、戦時中の空爆の影響もありましたが一時は人口が1/3にまで減っていますからね。

大井 一方で、ワイナリーや、チーズの生産は古くから続いていますよね。

木下 そう。それも、何百年単位で。実は地域政策というのは、伸びるところを目一杯伸ばすだけではいけなくて、いかに上げ下げを緩やかにするかっていうサステナビリティ、持続可能性の視点が必要です。ギューっと一気に伸ばした分、「山高ければ谷深し」では困ります。まちが廃墟化するわけなので。「じわじわ」伸びていく産業の選択も意識して、バランスを取らないといけないんですよ。

衰退しきったリバプールの再生劇

大井 結局、リバプールは、第二の都市になった後どうなったんですか?

木下 一度はすさまじい量の失業者が出たとのことで、失業率が20%を超えたと聞きました。一時期は世界最先端だった港湾も、綿花などがアジア各国で製造されるようになり、港としての需要が低下。さらにコンテナといったイノベーションなども重なり、大量に雇われていた荷運びの仕事の人たちは、失業することになったわけです。そして、一時は「世界の貿易額の半分を占める」とまで言われた港町に、ヨーロッパ最大のスラムが形成されたと言います。地元の人達は、「戦後は本当に悲惨だった」と語っていました。「あまりにやることがなくて音楽をやってたら、ビートルズが出てきたんだ」って笑いながら話していましたよ。

大井 そこから、よくなったんですか?

木下 そう、「山高ければ谷深し」の、その先があったわけです。リバプールには、今もかつての栄華の名残であるレンガ造りの港湾が残っているんですが、やっぱり、「世界の半分」なだけであって、スケールが違います。横浜の赤レンガの50倍位はある感じです。ものすごい集積なんですよね。

リバプール

木下 今はここが、文化芸術の拠点になったり、クラブなどのナイトタイムエコノミー、宿泊敷設などで活用されることで賑わっています。当時の公園や緑地帯に飲食店が軒を連ねたり、レンガ造の壁面を使ったシアターがあったり。中には特大のレンガ造の倉庫をまんなかでぶったぎって、半分がホテル、半分がクラブになった施設まであるんです。これがもう、めちゃくちゃかっこよくって、若い子たちがどんどん集まってます。

大井 なるほど。それは、すごくいいかたちですよね。

40代のIT長者が「名誉市長」

木下 もうひとつ面白かったのが、Lord of Mayor(=名誉市長)制度。リバプールでは市長とは別にLord of Mayorという名誉職があって、一般人が選ばれます。その選考基準、何だと思います?

大井 ……なんでしょう?

木下 超シンプルです。「前の年にいちばん納税した人」。いちばん儲けて、いちばん納税した人がLord of Mayorになるというわけです。「ま、お前は十分に儲けたんだし、地元に貢献しなさい」という意味が含まれているとともに、やはり、ちゃんと稼いだ人を称える文化があるわけです。素晴らしいなと思います。

いわゆる日本では市長がやる行事での挨拶や、会への出席は基本的にこのLord of Mayorがやるんです。私が訪問して現地の方々と会議をしていたときにも参加してくれて、市役所を案内してくださいました。その一方で、市長は粛々と公務をこなす。理想ですよね。

僕が5年ぐらい前にリバプールに行ったときのLord of Mayorなんて、まだ若かったですよ。41、42歳ぐらいだったかな。

大井 何をしてる人なんですかね?

木下 ネットのビジネスを成功させて、IPOさせたと言っていました。

だから、ちょっと前日本の商工会議所にも言ったんですよ。「商工会議所も経済団体なんだから、地元でいちばん儲けた人を毎年トップにしたらいいんじゃないですか」と。そうしたら、二度と呼ばれなくなりましたが(笑)。

でも、結局ここが大事なんです。儲けて、きちんと納税する人に対する敬意があるか。日本の地方だと、結局儲けて納税している人より補助金をうまく引っ張ってくる人が評価されたりするじゃないですか。

稼ぐ人を下に見るまちは、必ず衰退する

大井 儲ける人こそリスペクトされるべき、というのはまさに、今回の新刊『地元がヤバい…と思ったら読む 凡人のための地方再生入門』で強調されていたポイントですよね。

今作はご自身初の小説形式ですが、なぜこのカタチになったんですか?

木下 そうしないと伝わらないことがあったんですよね。地方で20年もやってると、いろいろなことがあります。僕も、たくさんの失敗を積み重ねてきました。というか、今も失敗してばかりですね(笑)。

そんなとき、経営のロジックももちろん重要なんですが、まわりからの批判にめげずに続けられるか、そのメンタル面の葛藤もとても大きな厚い壁だったりするわけです。

事業をするのは、機械ではなく、あくまで人間ですからね。そのような気持ちの移り変わりは小説じゃないと伝えられないかなと。ストーリーとして伝えていけば、ロジックだけでなく、心理的な部分も伝わると思ったわけですが、結果的に、すごいい反響をもらっています。

「今までの木下の本は難しくてよくわからんかったが、これなら読める。おもしろかった」と何人にも言われたり(笑)。

大井 主人公に、「起業しよう」と持ちかける地元のキーマンも、まさに「儲ける人」ですよね。衰退したまちで飲食店をいくつも成功させているやり手の経営者ですが、地元の人からは評価されていない。むしろ、「あいつだけが儲けて」と、冷や飯を食わされている。

木下 衰退局面になってくると、地元最大の企業が「役所」になるんですよね。そして、最も地域の外からお金が入ってくるのが年金だったりするわけです。補助金交付金をいかにもらえるか、そして足元では年金収入という制度でお金を稼ぐことしか考えられなくなっていく。他の事業者と競争して、誰かに喜んでもらって対価を得る人たちが少なくなるんです。

だから、地域内のヒエラルキーでは、事業を成功させている人が二番手、三番手みたいな扱いを受けちゃうんです。でも、それってどう考えてもおかしい。

稼いでいる人たちが評価をされてポジションが上がっていかなければ、その地域は衰退するしかないですよね。最大の「外貨」である年金の額は、これから高齢者が亡くなり、人口が減っていけば減っていくわけなので。

大井 ええ、そうですね。

木下 そういうまちほど、「うちには生きのいい若手がいない」と言うんですが、いるんですよ。どこのまちにも知恵を絞って商売をやってる人はいるんです。昔と違って、単に稼いで遊ぶだけでなく、地元のことも考える商売人だってたくさん出てきています。でも、「金儲けはよくない」みたいなよくわからない空気の中で、そういう人たちが下に見られる現状がある。そういった不条理は、物語じゃないと伝わらないと思ったんですよね。

大井 地方にいる人にとっては、この本はリアルすぎてフィクションだと思えないですよね。

木下 ええ、「総論フィクション、各論リアル」です。人格はいろんな人が合成されていますが、基本は全部実話です。逆に言えば、フィクションだということにしないと書けなかった(笑)。そのあたりも知ってから読むと、より楽しんで頂けると思います。(続く