地方が衰退するのは人口が減るからじゃない。「稼ぐ視点」が欠けているからだーー。
地方におけるビジネス分野の最前線で約20年奮闘してきた地域再生事業家・木下斉氏は、そう指摘する。
どうすれば、地方は稼げるようになるのか? 新刊『地元がヤバい…と思ったら読む 凡人のための地域再生入門』の発売を記念して、福岡の名書店ブックスキューブリックでそのヒントが語られた。前中後編の3回に分けてお送りするイベントレポート、最終回。前編中編はこちらから。

所得を上げるとはどういうことか

木下斉(以下、木下) 僕はずっと稼ぐまちづくりの重要性を説いているわけですが、それは端的に言えば「住む人の平均所得を上げる」ということだと思っています。

こんなことを言うと「いやいや、所得ではない価値もあるんだ」と言われることもあるし、実際その価値もあるとは思いますが、やはり所得は基盤として大切です。

ただ、平均所得をどうやって上げるかということを、意外と政治家ですらよくわかっていない。

大井実(以下、大井) どういうことですか?

木下 所得は、労働所得と資本所得によって構成されています。労働所得はわかりやすい。働いて得る、いわゆる「お給料」です。一方、資本所得は、投資したり、お金を貸したり、自分が持つお金を働かせて得られるお金です。この2つを組み合わせて、今ある地域の状況を打開しないといけません。

地域の所得改善に必要なのは、労働所得の改善と、資本所得の改善です。つまりみんなが持っているお金を働かせる場所を作り、そのリターンを地元の人が得られるようにしなくてはなりません。

木下 斉
地域再生事業家
1982年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。一橋大学大学院商学研究科修士課程(経営学)修了。一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンス代表理事。内閣府地域活性化伝道師。高校在学中に早稲田商店会の活動に参画し、高校三年で起業。全国各地で民間資本型の地域再生事業会社を出資経営するほか、地方政策提言ジャーナルの発行、400名以上が卒業して各地で活躍する各種教育研究事業を展開している。

大井 地域の中でお金を回す、ということですよね。

木下 そうです。たとえばハワイは、ずっとそこに問題を抱えています。アメリカの本土や世界中のいろんな会社が進出してきて、ハワイへの観光客相手にビジネスをやる。でもそのお金は地元の人には分配されず、事業に投資した島の外の人の懐に入ります。その結果、昔から住んでいた人は、もう家さえ借りられない境遇にまでなってしまって、中にはホームレスになる人もいる。

儲かったお金はどうなるか? もっと儲かる他の場所に、再投資されるわけですよ。それこそ、ホノルルのハレクラニという高級ホテルが、今度沖縄で開業するようにね。資本はどんどん次なる利回りの高い土地を求めて移動していきます。

大井 そうなると、地元の人が全然潤わないと。

木下 はい。沖縄だって、ハワイと同じ構図になりつつありますね。観光客は増えていますけど、結局は外の資本が沖縄というロケーションを使って儲けるだけになっちゃっている。結局地元の人が得られるのは安い労働所得だけになってしまいます。

国内でも事情は一緒で、福岡もチェーン店ばかり外から連れてくると、資本がどんどん外に流出していきます。

大井 利益が東京のほうに戻っていくばっかりですよね。

大井 実
1961年、福岡市生まれ。同志社大学文学部卒業。東京、大阪、イタリアなどで、ファッション関係のショーや現代美術の展覧会などの企画・制作に携わった後、2001年、福岡市のけやき通りに新刊書店ブックスキューブリックを開業。06年、いまや全国各地に広がるブックイベントの先駆けとなった「ブックオカ」を有志とともに立ち上げ、実行委員長を務める。08年に、カフェとギャラリーを併設する箱崎店をオープン。16年には同店内にベーカリーを開設。トークイベントや展覧会を次々に開催しながら、本を媒介に、人が集い、町と人をつなぐコミュニティづくりへと活動の枠を広げている。

木下 地元に支払われるのは、安い賃金だけです。つまり、労働所得だけ考えていては地方の平均所得を大きく上げることは難しい。もちろん、地元の外の企業をゼロにしろとは言わないですけど、最低限、比率は考えたほうがいいですよね。

今の地方には新しい金融の形が必要だ

木下 アメリカには、社会再投資法(CRA=Community Reinvestment Act)という法律があります。地元から預金を集めた金融機関は、地元にどれだけ投融資しているかで成績がつけられて、ネットで公開されます。そして、数値があまりにひどいと、地元の人が預金を全員で引き出して潰しちゃうなんてケースもあると、アメリカで地域再生に取り組む人たちから聞きました。潰して、自分たちで新しい銀行を作るらしいんですよ(笑)。

大井 すごい。現代の「農民一揆」ですね。

木下 まぁ、昔は日本も昭和の金融恐慌のときに無尽とか協同組合とかを作ったりしていましたからね。本当は特段珍しい話でもない。

これからの地方の金融を考えると、やりようはいくらでもあるんです。たとえば、前回紹介したバスクには、地元の人が立ち上げた1兆4000億円規模の巨大な協同組合があり、地元で資本を回しています。

だから、九州も、九州の人たちで金を出し合うでかい協同組合みたいなのをつくってもいいはずです。新しい事業に九州の人が投資をして、九州の人がそのリターンを受け取ればいいでしょうね。

大井 なるほど。

木下 そういう意味では、今の金融システムは、時代に合わなくなってきているかもしれません。全国一律の規制や保護政策は、預金者保護というリスク回避という意義はあるのかもしれません。ただ、一方でまったくリスクを負わないからこそ資本所得が得られない人も多いし、投資や融資を受けられずに成長機会を失う企業もあるわけで。結局、企業が成長しなければ雇用機会も増えないし、労働所得も増加しません。以前『福岡市が地方最強の都市になった理由』でも福岡無尽、後の福岡シティ銀行を経営した四島一二三さんについて書きましたけど、今ある金融機関も、100年ほど前に地方で実業家たちが中心となってゼロからポコポコ立ち上がったものです。それが、いつの日からか、消費者根性になっちゃった。

大井 消費者根性?

木下 システムは自分たちが作り上げるものではなく、提供されるものだと思いこんでいる、ということです。

まちづくりの成果は50年、100年先にわかる

木下 今日本の地方に必要なのは2つで、気概のあるプレイヤーと、全体のグランドビジョンです。

プレイヤーでいえば、たとえば岡山の大原美術館を建てた、大原孫三郎はすごかったですよね。今倉敷の美観地区が存在するのは彼のおかげです。でも、当時は、周囲の誰にも理解されなかったはずです。

大井 そうですよね。

木下 まちづくりは、50年、100年かかって成果が出るものなんです。今がよければそれでいい、と近視眼的に動くといずれ大きな反動が来ます。たとえば、今から30年前ほど前に神戸がすごく注目されていたのを覚えてますか?

大井 ああ、そうでしたね。

木下 当時神戸は、六甲山を削り、削った土地をベルトコンベアでガーッと海に流して埋め立てました。そして、削った山はニュータウンを建て、埋め立てたところにも建物を建てて分譲した。株式会社神戸方式とも言われ、「こんなうまい商売はない、地方は神戸から学べ!!」と持て囃されましたが、それが今どうなっているか。

そう考えると、やっぱり「冷静になった者が勝ち」なんです。調子のいいときに冷静さを失って勢いをつけて乗り込むと、撤退もしづらくなります。福岡は、かつて工業都市になるという計画を掲げたものの、うまくいかないとわかったら潔く撤退して、サービス業を伸ばしたからこそ今栄えています。そのクールさが、福岡のいいところですから。いいときこそ、他をパクるのではなく、次なる時代に向けた芽を育ててほしいですね。

これから必要なのは、国家戦略ではなく地方戦略

大井 そういう視点を持てば、九州はまだまだポテンシャルがありますよね。

木下 そのときに大事なのが、「九州全体」のグランドビジョンですよ。

現代は地域ごとに状況が多種多様すぎて、日本全体でのビジョンはもう描けなくなってきています。今必要なのはリージョナルストラテジー、その地方独自のグランドデザインです。

今、東南アジアは急成長しています。これから所得が増え、お金を使おうという人がどんどん出てくる。九州は彼らに近いという地の利を生かして、どういうふうにお金を落とすのか、他の国や都市圏に勝てる戦略を描けばいいんです。

「戦略」ですから、もちろん他との差別化が必要です。今さら高いビルや大きな工場をどんどん建ててもしょうがないんですよ。そんなものは、これからアジアの各地にいくらでもできますから。

大井 では、どうしたらいいんでしょう?

木下 たとえば、九州は食に力を入れて、きちんとした調理専門大学院をつくってもいい。日本の大学でこれだけ工学部があるのに、食に関する学部がほとんどないのはおかしいですよね。

日本で工業が廃れ、その中心地がアジアに移った今、「食」は競争力もあり、今後も成長していく有望な産業じゃないですか。しかも、今工業に力を入れている他のアジア諸国は、まだそこに力を入れようとはしないわけです。だからこそ、九州は畜産や農業が集積している南部に、アジア最高の調理大学院をつくればいいんです。

すでに日本人は世界中のレストランで働いています。これだけ人材集積があれば、教育プログラムを展開すれば、アジア中から学生を集められる。それなのに、いまだにサービス産業は下に見られているのかもしれませんね。工業にはR&Dや人材育成は必要だけど、食にはいらないだろ、ということなのでしょうか。

世界有数の成長産業である観光産の中でも中心的役割を果たす「食」を育てないのはもったいない限りです。次なる人材育成の分野は、農業力の高い九州としてすでに明らかになっていると思うんですけどね。別府におけるAPUのように、アジア中から学生を集めることに成功している大学もすでにあるわけですから。

大井 なるほど。いやあ、可能性を感じますね。高校生の頃から事業を経験して、そこから20年いろんな地域の栄枯盛衰を見守った木下さんだからこその提言、素晴らしいなと思いました。

木下 結局、国が変わるから地方が変わるわけではないんですよ。それぞれの地方が変わるから、その結果として国のかたちが変わっていく。歴史的に見てもこの国は西から変わってきましたから、その気概を持って国を変えていくのは、やっぱり九州であってほしいです。

大井 今日は大変勉強になりました。ありがとうございました!(終わり)