容疑者、警察双方から
信頼を得るのが司法通訳

「自分は、あなたの敵じゃない。私は優秀な通訳だ。だから信頼して、あなたの言い分をきちんと主張しなさい。私はそれを刑事に正確に伝える。それが私の仕事だ」

 こう語りかけると、たいていの容疑者は彼を信頼して供述を始めるのだという。

「刑事が怒った口調で話したら、私も同じように怒った口調で中国語に訳す。そうすることで刑事たちからの信頼も得られるんです。中には、同胞に甘い通訳もいますからね」

 中国人通訳の中には、容疑者から「裏切り者」と見られて、後から報復を受ける者もいたという。

「面会で仲間が来るでしょ。そのときに『あの通訳をやっつけろ』って指示するんです。そういうケースもたまにありましたね」(周氏)。

 こうして周氏は数年間に渡り、刑事たちとともに中国人犯罪捜査の最前線に立ち、さまざまな事件の解決に手を貸してきたのである。

 しかし、なぜ稼げる仕事を手放したのだろうか。

「取調室のタバコの煙に耐えられなくなったというのも大きい。同胞を追い詰めていく仕事には、やっぱりストレスも感じていたし。あとは90年代末になると、テレビのコメンテーターの仕事も入るようになり、自分の中で新しい可能性が見えてきた時期でもある。同じ頃、日本政府が指紋押捺制度を導入した結果、外国人犯罪者の再入国が難しくなった。これにより外国人絡みの仕事は減っていくだろうという読みもあった。司法通訳は神経も磨り減るし、あまり長くやるものじゃないなと思って、2000年に自分から引退しました」

 新たな法律の下、この4月から外国人労働者の受け入れが拡大される。となると、司法通訳に対するニーズは高まっていくだろう。単に外国語ができるだけなく、周氏のような容疑者、警察双方から信頼を得られるノウハウを身につけた通訳が求められているのかもしれない。