「前の噴火は1707年、宝永の大噴火っていうんだったな。以来、富士山の地下にはマグマがたまり続けているんだ。そろそろ次の噴火が始まるという学者もいる。予兆らしきものも観測出来ているらしい。宝永の大噴火のときには江戸や千葉にまで10センチの火山灰が積もり、昼間でも薄暗くロウソクを点けなきゃならなかったんだろ。江戸というのは今の東京だったな。100キロを超えての灰のシャワーだ」
「アメリカ人は日本の歴史にまで興味があるのか」
森嶋は内心、ロバートの言葉に驚きながら言った。
「すべて合衆国防衛のためだ。日本が自ら自国を護ろうとしないからだ。お前の国は、自国のトラブルが他国に及ぼす影響ということを考えたことがないのか」
「そういうことはアメリカにだけは言われたくないね。1929年の世界大恐慌、プラザ合意、サブプライム問題、リーマン・ショックも、アメリカ発の世界を巻き込む大トラブルだ」
ロバートはわずかに肩をすぼめただけで反論はしてこない。
「この地は、北は活火山、南はフィリピン海プレートがひと暴れしようとチャンスをうかがってる。東京だって同じだ。この国は小さいが危険の塊のような国なんだ」
ロバートはごく自然に話しているが、彼らは、富士山の噴火や東海地震についても詳細を調べているのだ。森嶋は改めて、アメリカの情報収集能力に驚かされた。しかしまだ解析力については未知数だ。