ロータリーには、いつ呼んだのか大使館の車が待っていた。

 車は首都高速に乗って、湾岸道路へと移っていった。

 運転手は法定速度を保ちながら、行き慣れた道のように走る。

「どこに行くんだ」

「知るか。俺が地理に興味がないのは知ってるだろ」

 ロバートはiPadを立ち上げてメールをチェックし、返事を書いている。彼の興味は異常と思えるほど偏っている。そしてそれが常に変わっていく。どんなに必要なことでも、興味のないモノはまったく覚えようとしない。地理もその一つで、同行者がいる場合は任せきりだ。

 森嶋は運転手に聞いたが、返事一つ帰ってこない。そういう規則になっているのか。

 森嶋は諦めて目を閉じた。その途端、眠りに引き込まれていった。

 気がつくと車は高速道路を降りて海に向かって走っている。すでに30分あまりがすぎていた。森嶋は辺りを見回した。

「葉山か」

「そういう名前か。近くに天皇の別荘があるらしいぜ。マリーナと富士山も見える」

 ロバートが視線を向ける方向に富士山の美しい姿があった。

 「あの山は見かけは優雅だが、噴火すると東京や千葉にまで火山灰が降ってくる、という報告書を読んだ。溶岩は麓の町を呑み込みながら、何キロにもわたって流れていく」

「最悪の場合だ」

「2011年の東北の地震と津波、そして原発事故は最悪じゃなかったのか。我々は常に最悪のケースを想定して行動している。その最悪のケースにも、様々な最悪のケースを考えながらな。日本人の楽観主義を見ているとイライラしてくる」

 森嶋はどう答えたらいいか分からなかった。たしかにその通りなのだ。