細山は多田の話を聞いて、不思議に思った。部内の飲み会はいつも会費制で、各人が参加費を自腹で払っていると聞いている。会社に対して経費の請求はしないはずだ。そのことを多田に話すと、多田は驚いた顔をして、声を潜めた。

「飲み会の分を会社に経費として請求したってことは、幹事が不正をしているかもね。これが事実ならヤバイ問題になるよ…」

 細山は多田の話を聞きながら、飲み会の幹事のことを反芻していた。確かに幹事はいつも部長がやっている。まさかあの部長がそんなことをするとは思えない。多田には、幹事の不正に関し「どうかな…」などとあいまいに返答し、昼食を急いで食べて「お先に」と席を立った。

同期入社の「ヤバイ問題」発言に
深まる永井部長への疑惑

 営業部に戻った細山は、多田の「ヤバイ問題」という言葉が頭から離れなかった。ふと、近くを通った姫野に話しかけた。

「姫野さん、営業部の飲み会って多いんですか?」
「数年前から部長が『コミュニケーションを良くしよう』って企画し出したの。そうね、1ヵ月に1度くらいはあるかしら…」
「参加費はいつも皆が自腹ですか?」
「そうよ。店によって金額は違うけど、部長がいつも多めに出してくれるみたい」
「部内の飲み会だと会社の経費で落ちないんですかね?」
「『部内の飲み会は経費一切認められないんだ』と部長が言ってたわ。でもなんで?」
「いや、僕の給料はそんなに多くないから、会社が負担してくれると助かるなあって思っただけで…」
「確かにね」

 細山の心中には、永井部長の経費不正請求に関する疑念が残った。だが、多田の勘違いということもあると思い、モヤモヤした気持ちを抱えつつも誰にも言わずにいた。

 それから数日後、社内の廊下で多田とすれ違った細山は、「お疲れ」と軽く声をかけてすれ違ったが、思い直したように振り返って多田を呼び止めた。

「あのさ、ちょっと気になる事があって。昼休み、時間あるかな?」