Cさん(35歳男性)はインフルにやられて、寝床を夫婦の寝室から客間に移した。Cさんに一番懐いている猫は寂しがって、客間の襖の前でアオーン、アオーンと哀しげな声を上げる。その鳴き声はCさんが見ている風邪の悪夢を暗く彩り、Cさんはさらにうなされた。しかし猫の毛はいかにもウィルスを含んで運びそうであり、妻は猫の入室を許可しなかった。
ここまでは病後のCさんが思い返してみても納得の采配であり異論はない。問題は襖の向こうから聞こえてきた、パパに会いたがっていた3歳の娘と妻のやり取りである。
「パパに会っちゃいけないの?」
「パパは風邪だからダメ」
「どうして風邪だとダメなの?
「風邪は会うとうつっちゃうから」
「うつっちゃうって何?」
「パパの持ってるばい菌菌をもらっちゃうってこと」
「どうしばい菌もらっちゃうの?」
「パパはばい菌だらけだから。ばい菌がいーっぱいいるから、こっちにこんにちはーって来ちゃうの」
「パパ、ばい菌だらけなの?」
「そう。パパは今ばい菌の塊だよ」
以下Cさんのコメントである。
「ショックでした。事実には違いないのですが、伝え方がえぐい。3歳の娘の認識が『パパはばい菌だらけ』にアップデートされるのではないか。妻のあのたしなめ方によって、今後の父子関係に影を落とすであろうことを覚悟しました」(Cさん)
実際、Cさんが完治してからも1週間ほど娘はCさんと風呂に入りたがらなかったそうである。娘は「ばい菌とバイバイするためにお風呂に入るのに、パパと入ったらばい菌がこっちに来ちゃう」と主張していた。