厚生労働省の「毎月勤労統計」で長年不適切な調査が行われ、雇用保険など計500億円余りもの支給不足があった問題が発覚した。裁量労働適用者の労働時間調査、障害者雇用水増し問題に続くトンデモない事態だ。(モチベーションファクター代表取締役 山口 博)

不適切な統計調査で
雇用保険などの支給不足が発生

霞ヶ関の厚生労働省2004年以降、ずっと「毎月勤労統計」で不正な調査手法を取っていたことが明らかになった厚生労働省。組織的隠蔽でもしない限り、これほどの事態が長年、放置され続けるとは考えにくい Photo:PIXTA

 厚生労働省の「毎月勤労統計」で、500人以上規模の全事業所を調査すべきところ、2004年以降、東京都の対象事業所の3分の1程度の抽出調査しかしていなかったことが判明した。

 その結果、賃金などの統計数値が実態より低くなってしまった。統計数値を基に計算される雇用保険の支給金額などの上限金額や下限金額が実態よりも低く設定され、国民に不利益が発生していたというトンデモない事態だ。過少支給の対象者は実に1973万人、過少金額は537億円に上るという。

 根本匠厚生労働相は記者会見で、「組織的な隠ぺいがあったという事実は現段階ではない」という意味の発言をしている。しかし、組織的な隠ぺいなくして、長年にわたり、これだけの影響が出る事態が放置されているとは考えにくい。

 組織的な隠ぺいがなかったとすれば、調査担当者や管理者、それらの関係者は、通常期待される注意義務を果たしていなかったということになる。わが国中央官庁を担う人々が善管注意義務を履行できていないとは、到底思えない。数件の差であればいざ知らず、全数か、全数の3分の1抽出かは、データ数の合計を見れば、誰でも普通に気づくことだ。

 仮に、本当に組織的な隠ぺいがなかったとしても、許容されるというレベルの話ではない。結果として、国民生活の保障及び向上を図るという厚生労働省設置法に定めた目的に背く状況をもたらしてしまったのだ。

 同省ホームページで公開されている毎月勤労統計の調査結果データのエクセルファイルに、調査対象データ数が掲載されていないことも気にかかる。その点も、組織的な隠ぺいと思われてしまう一因かもしれない。