安倍首相が、裁量労働者は一般労働者よりも労働時間が短いという意味の答弁をしたが、そのデータがデタラメだったという事態が発覚した。裁量労働制は労働時間の増減に大きな変化を生み出さない。この答弁は、勤務管理の形骸化を示すトンデモない事例だ。(モチベーションファクター株式会社代表取締役 山口 博)

法案成立を焦ったか?
怪しげなデータ引用が問題に

厚労省のトンデモデータが元凶となって、今国会での裁量労働制拡大はご破算となった Photo:Natsuki Sakai/AFLO

 安倍首相が衆議院予算委員会で「裁量労働制で働く方の労働時間の長さは、平均的な方で比べれば一般労働者よりも短いというデータもある」と答弁したが、そのデータが誤っていたという事態が発覚した。

 安倍首相が用いたデータは、厚生労働省が実施した「労働時間等総合実態調査」だ。裁量労働が適用されている人の1日の労働時間は9時間16分で、そうでない人の9時間37分より短いという2013年の調査結果に基づいている。

 しかし、このデータ、裁量労働適用者には1日の労働時間を質問する一方、そうでない人には最も多く残業した日の時間を聞く内容になっていたり、残業時間が1日45時間と記載された回答が複数混じるなど、トンデモないデータだったのだ。

 政府は悪意がなかった、ねつ造ではないという意味の抗弁をしているようだ。しかし、仮にそうだとしても、働き方改革関連法案を是が非でもこの通常国会で成立させたい政府が、ずさんなデータを鵜呑みにして、裁量労働は労働時間短縮に資するとこじつけ、審議の誘導と世論喚起に無理を通そうとした姿勢が、透けて見えてしまう。

 そもそも、裁量労働制は、労働時間を短縮させるための制度ではない。実際に働いた時間にかかわらず、労使であらかじめ定めた時間働いたとみなし、業務の手段や方法や勤務時間を社員の裁量に委ねる制度だ。

 複数の会社で人事部長を務め、裁量労働制を導入したり、運用してきた経験を踏まえると、裁量労働制で労働時間が短縮されるとは言えない。私の肌感覚では、裁量労働制導入の前と後では、労働時間に大きな変化はなかった。裁量労働制を導入する前から長時間勤務してきた人は、導入後も変わらず長時間勤務する傾向にあった。勤務時間が比較的短い人は、導入した後も、比較的短かかった。