米国の医療費は全額自己負担が原則。それを個人が加入する民間の医療保険で保障するのが一般的だが、日本で承認されれば、健康保険適用となるだろう。限られた医療財政下で、いくら革新的な薬でも青天井で支払えないことはオプジーボ騒動で証明済みだ。米国での薬価を前提に保険適用するのは、非現実的かもしれない。
実は米国でも、あまりに高額であるため、治療後1カ月までに効果が認められた患者にのみ、支払い請求する制度を導入し、話題になっている。
ノバルティス日本法人は態度を明らかにしないが、17年10月の一部報道によると、ヴァサント・ナラシンハンCEO(当時はグローバル医薬品開発部門責任者兼チーフメディカルオフィサー)は日本でも成功報酬型の導入に意欲を示しているという。日本で成功報酬型の薬価が設定された例はない。
「ギャンブルであり、医療倫理的に無法地帯になってしまう恐れがある。日本の医療風土的に認めないのでは」とクレディ・スイス証券の酒井文義アナリスト。業界関係者の見立てはおおむね否定的だ。
楽天社長が入れ込む光免疫療法で
国内試験が始まる
注目されているもう一つは、日本発(?)の“夢の治療法”とうたわれる「光免疫療法」だ。
楽天の三木谷浩史会長兼社長が、この治療法の開発をしている米医療ベンチャー、アスピリアン・セラピューティクスに投資していることもあって、国内で一躍注目の的になった。開発コードは「RM-1929」。がんで亡くなった三木谷氏の父(三木谷良一、1929年生まれ)に由来している。
開発者は日本人の小林久隆氏。米国立衛生研究所(NIH)の主任研究員で光免疫療法の研究により、NIH長官賞を受賞している。
米国では頭頸部がん患者を対象に臨床試験中。日本でも同じ頭頸部がんの患者を対象に、今春から国立がん研究センター東病院で国内初の臨床試験が始まる見通しだ。
このプロジェクトを主導する同病院の土井俊彦副院長は、「あくまでも当院で行われている数多くの臨床試験の一つという位置付け」と断った上で、「メカニズムが斬新で分かりやすい。効果や安全性が証明できれば、これまでの治療の常識を打ち破る可能性を秘めている」と期待する。
光免疫療法は、がん細胞にくっつく性質を持つ抗体に、近赤外線(テレビ用リモコンの信号などに使われる目に見えない光)に反応する化学物質を結び付けた薬剤を投与する。その後、がん細胞がある箇所に近赤外線を当てる。
例えて言うならば、ダイナマイト(化学物質)を装填したミサイル(抗体)が、がん細胞だけを狙い撃ちにし、そこに近赤外線を当てる。そうすると、ダイナマイトが近赤外線に反応して爆発、がん細胞を破壊する(下図参照)。