発売たちまち5刷。累計200万部超・第一線ビジネスライター上阪徹氏の全スキルとマインドを明かし、「かつてないほどに実用性の高い文章術」とビジネスパーソンから高い評価を受ける『10倍速く書ける 超スピード文章術』のエッセンスを紹介する本連載。
今回は、上阪氏が主宰する「ブックライター塾」の第6期開塾記念としてBOOK LAB TOKYOで行われたトークイベントを元に、「速く書くために重要なこと」をお伝えする。
(取材・構成:伊勢真穂)
「書く」は3割。「取材」が7割。
私は、10万字の文章を、5日間で書き終えます。
これは、同業のライターさんに驚かれることも多く、かなり速いようです。
「10万字」と聞いて、「大量そう」とは思っても、具体的にどれくらいの分量なのかピンとこない方も多いでしょう。
10万字は、A4用紙にプリントアウトすると5cmほどの厚さ、おおよそ本1冊分に相当します。
文章を書く機会が訪れたとき、多くの人はつい、「書くこと」ばかりに意識が向いてしまいがちです。しかし、私の場合、実際に書いている時間は10万字の文章を仕上げる全工程の、3割程度です。
では、残りの7割は何なのか。それは、何と言っても「取材」です。
速く書くためには、書くための素材を「書く前」にどれくらい集めておけるかがすべてだと言っても過言ではありません。だからこそ、私がブックライターとして著者に取材をする際は、取材の準備を丁寧に行っています。
「取材」というのは、たとえば企画書を作る際にキーワードを集めることと同じじです。
たとえば、「自社商品・サービスが有効に使われた顧客の声を見直す」「自社商品・サービスを提供する顧客層はどんな1日を過ごしているのかを想像する」といった、企画を通すための「素材」を集めることが、よい企画書を作る決め手になるはずです。
ちなみに私は多くのケースで、取材前の事前打ち合わせで著者と1時間ほど話をして、質問項目を整理した取材用の資料(コンテ)をつくり、事前に著者にお渡ししておきます。10時間分の取材なら、取材回数にして5回分。
そうすると著者も、毎回準備をして取材に臨んでくださるので、モレなくダブりなくお話しいただくことができます。これができれば、本1冊分=10万字分の素材を集められたと同じことなのです。
企画書でいえば、
[1] 目的や対象・期日を記載する企画概要ページ
[2] 具体的な商品サービスの説明ページ
[3] 同一の商品サービスを利用したクライアントの感想ページ
[4] 費用概算ページ
といったように、企画書の構成を事前に整理しておけば、どの部分の素材を集めているのかが把握しやすくなるため、迷いません。
必要なのは「相場観」と「集中力」
専門性はなくてもいい
自分が集めた素材が、10万字を書くに値する「正しい素材」なのかどうか、不安に思われる方も多いようです。集めた素材が目的とズレたものであれば、使い物になりません。
そこで私が大事にしているのが「相場観」です。
相場観とは、自分目線ではなく、相対的に考えて、読者となる人が何を知りたがっているか、何をおもしろがってくれるかを見極める視点をもつことです。
「ブックライターには専門性が必要なのではないか?」という質問もよくお受けしますが、わたしは「要らない」とお答えしています。その道の専門家が読むような本を書くならば別ですが、私が携わっているビジネス系の本の読者は、特別な知識を持っていない一般の方々です。自分が読者のつもりで取材に行ったほうが、読者の相場観に合った本ができます。
たとえば、「課長の仕事術」という書籍を書くとすれば、カルチャー畑で活躍するライターさんよりも、大企業に10年勤めているビジネスパーソンのほうが、素材集めの相場感を持っている可能性が高いと言えます。会社員とは何か、満員電車で通勤する大変さ、プレイヤーとマネジャーの違い……といったことを知っている人のほうが、世の中の課長さんたちが求めているものがわかるからです。
ただし、取材中に大事なことが1つだけあります。
それは、とにかく思い切りその場に集中すること。書くための素材集めがすべてだからこそ、取材後に「もうちょっと掘り下げておけばよかった」「これも聞いておけばよかった」なんてことになれば致命傷です。必死で集中して、機関銃のように質問を繰り出します。
たとえば取材相手が「経営はアートなんだよ」などと抽象的なことを言ったとしたら、絶対に逃しません。「それはどういうことですか?」「最近はどういうときにそれを感じましたか?」などと質問を重ねていくことで、より具体的な素材が手に入るのです。
書くときの3つのポイント
10万字のを5日で書くというテーマなのに、ここまで書くことについて触れていません。それくらい「取材」が大事だということです。
とは言え、書く上でのポイントもあるので、3点ご紹介したいと思います。