問い合わせや原稿の依頼などで、閉口するものの一つが「投資家のタイプ別のお薦め商品(の組み合わせ)を教えてください」というものだ。依頼側は、初心者向け、ベテラン向け、あるいは若い人向け、高齢者向けなど、投資家に合った複数の運用方針があると思い込んでおり、雑誌の原稿などであれば、表組みのレイアウトがあらかじめできている場合もある。
しかし、まじめに考えると、この依頼には応えようがない。
通常の投資の教科書は、リスクを定義した後に、リスクと相関関係と期待リターンを使いリスク資産を組み合わせて分散投資をすると、効率のいい運用ができることを説明する。次に、投資家の選択肢は、リスク資産の組み合わせの一つと、無リスク資産の貸し借りを組み合わせたものに拡張される。この段階でリスク資産への投資内容は、投資家のリスクに対する好みと無関係に一つに決定される。
こう書くとわかりにくいかもしれないが、「リスク一単位当たりの期待リターンがベストになる組み合わせが一つわかれば、あとは、金利物の運用や借り入れで、リスクの大きさを自分で決めればいいでしょう」と大ざっぱに言えば、だいたいそれがいいという感じはわかってもらえるのではないだろうか。
ちなみに、理論が現実との関連性を急速に失うのはこの先で、投資家の持つ情報・判断が同じだと仮定したり、リスク資産の需給が均衡していると仮定したりして、CAPM(資本資産価格モデル)理論が導かれる。これらの仮定の現実性はまったく疑わしく、この理論は本当は実務に応用できない。
だが、リスクと期待リターンの情報と判断一組に対して、どのような大きさのリスクを取るとしても、選択されるべきリスク資産の組み合わせ(銘柄とウエート)が一つだ、というところまでの論理と現実の対応には大きな隙はない。