親ならば、子どもには賢く育ってほしいもの。しかし賢い子とは、どんな子どもだろうか。IQや偏差値が高い子や、受験勉強が得意な子ばかりが賢い子ではない。
もし、自分の損得だけに使う「知恵」を賢さだとカン違いして、それを自慢に思う子どもがいたとしたら、近い将来、彼(彼女)は社会からのけ者にされていくだろう。それが集団心理の基礎だから……。
弱い人の味方になれる子、自分の意見を持てる子、それをきちんと表現できる子、他人を心から応援できる子、そして素直な夢を描ける子……そんな前向きな心で人生にトライできる子どもに育ってほしいという願いを込め、心理学者・植木理恵さんはダイヤモンド社から『賢い子になる子育ての心理学』を上梓した。
心理学が積み上げてきた膨大なエビデンスをベースに、知っておきたい子育ての「正解」を解説していく。

母は鏡、父はモデル

植木理恵(うえき・りえ)
1975年生まれ。心理学者、臨床心理士。お茶の水女子大学生活科学部卒業。東京大学大学院教育心理学コース修了後、文部科学省特別研究員として心理学の実証的研究を行う。日本教育心理学会から城戸奨励賞、優秀論文賞を史上最年少で受賞。現在、都内総合病院でカウンセリングを行い、慶應義塾大学では講師を務める。また、気鋭の心理学者としてフジテレビ系「ホンマでっか!?TV」でレギュラーを務め、幅広い層から支持を集めている。

家庭における父親、母親、それぞれの役割が子どもの成長に与える影響というのは極めて大きなものです。オーストリアの精神科医、ハインツ・コフートは子どもにとって母親は鏡であり、父親は野心を持たせるモデルのような存在だといいます。

たとえば、母親は赤ちゃんがハイハイの状態から立って歩き出すようになったら、「よく歩くね。今日は3歩歩けたから、明日は10歩歩けるように頑張ろうね」というふうに子どもの姿を鏡のように映してあげながら伴走する。母親がこのように絶えず鏡のようになって子どものことを見守ってあげていると、子どもは自分のことをいつも見ていてくれるという安心感と希望を感じます。それが母親の役割なのです。

片や父親は、子どもが生まれてはじめて会う完全体の大人です。すなわち、子どもにとって父親は、「いまの自分は完全でないけれど、やがて成長して父親のように完全体に近づけるんだ」というモデルになるのです。

子どもに「自分は完全ではない」という不安感が生まれても、いずれ父みたいに完全な人間になるんだという気持ちがそれを打ち消してくれます。そういう形で子どもは自己愛を形成していくと心理学では考えます。

つまり、父と母というモデルが安定しているほど、子どもは安心して自己形成がはかれるのです。家庭内における父親と母親の存在がしっかりしているほど、子どもの成長にとってプラスに働くわけです。

ところが、子どもにとって完全体というモデル像を自ら壊す父親がいます。映画や漫画などで描かれる、飲んだくれで仕事もろくにしていないだらしない父親というのは、まさに子どものモデルであることを放棄しています。

そこまで極端でなくても、無自覚に子どものモデル像を傷つけるようなことをしてしまう父親はけっこういます。たとえば、家庭で上司や仕事に対する愚痴をよくしゃべる父親なんかがそうです。こういう父親がいる家庭の子どもは概して非行率が高かったりします

「仕事が大変だ、もう嫌だ」というような愚痴は、社会とのかかわりにおいてその父親があまり優秀ではないというメッセージをわざわざ子どもに向けて発信しているようなものです。子どもからすると完全体のモデルとおもっていたのに、「それはウソなんでしょ?」ということになってしまいます。

参考記事
「子どもに「しつけ」をしすぎていませんか?