親ならば、子どもには賢く育ってほしいもの。しかし賢い子とは、どんな子どもだろうか。IQや偏差値が高い子や、受験勉強が得意な子ばかりが賢い子ではない。
もし、自分の損得だけに使う「知恵」を賢さだとカン違いして、それを自慢に思う子どもがいたとしたら、近い将来、彼(彼女)は社会からのけ者にされていくだろう。それが集団心理の基礎だから……。
弱い人の味方になれる子、自分の意見を持てる子、それをきちんと表現できる子、他人を心から応援できる子、そして素直な夢を描ける子……そんな前向きな心で人生にトライできる子どもに育ってほしいという願いを込め、心理学者・植木理恵さんはダイヤモンド社から『賢い子になる子育ての心理学』を上梓した。
心理学が積み上げてきた膨大なエビデンスをベースに、知っておきたい子育ての「正解」を解説していく。

英語の早期教育は「考える力」を弱める

必要ない情報を脳は
自然に削っていく

早期教育というと、たいていの人はプラスの面ばかりを見がちですが、反対にマイナスの影響も考慮する必要があります。マイナスの影響が端的に生じる可能性を持つのが、英語など第2言語の早期学習です。

英語圏のネイティブはRとLの音を自然と聞き分けたり、発音できたりしますが、日本人にはそれができません。英語圏で生きていくには、RとLの違いは重要なことですが、日本語を日常的に使う人間にとっては、その違いを区別する必要がありません。必要がないと判断されたものについては、脳はどんどん削っていきます。脳の活動には節約原理が働くからです。

認知心理学では、「脳は節約家である」とか「脳はケチである」といった表現がされます。日常で必要ない情報は、脳は取り入れたりため込んだりせずに、外にはじいてしまう性質があるということです。

あなたは「R」と「L」の発音の区別が上手にできますか? とても微妙な違いですから、これはネイティブにしかできません。ところが、じつは私たちは誰しも生後数か月くらいまで、この微妙な違いを完全に聞き分けることができていたのです。

しかし、日本語を習得する上で、その分別力は不必要なものになってきますよね。日本語を話す上で、舌を内側に巻いて「R」という必要もなければ、舌を上の歯につけて「L」という機会も皆無でしょう。それよりも、明確に「ら・り・る・れ・ろ」といえるほうが、美しい日本語の発音ですよね。その日本語環境に、私たちは生後まもなくしてさらされることになります。

そこで、「節約原理」「ケチ脳」の登場です。日常的に不必要な労力・能力を、脳はどんどんカットしていきます。生きていく上で必要のないことまで、脳は重い認知負荷を背負いません。