親ならば、子どもには賢く育ってほしいもの。しかし賢い子とは、どんな子どもだろうか。IQや偏差値が高い子や、受験勉強が得意な子ばかりが賢い子ではない。
もし、自分の損得だけに使う「知恵」を賢さだとカン違いして、それを自慢に思う子どもがいたとしたら、近い将来、彼(彼女)は社会からのけ者にされていくだろう。それが集団心理の基礎だから……。
弱い人の味方になれる子、自分の意見を持てる子、それをきちんと表現できる子、他人を心から応援できる子、そして素直な夢を描ける子……そんな前向きな心で人生にトライできる子どもに育ってほしいという願いを込め、心理学者・植木理恵さんはダイヤモンド社から『賢い子になる子育ての心理学』を上梓した。
心理学が積み上げてきた膨大なエビデンスをベースに、知っておきたい子育ての「正解」を解説していく。

物量・方略・環境
3つの努力のベクトル

植木理恵(うえき・りえ)
1975年生まれ。心理学者、臨床心理士。お茶の水女子大学生活科学部卒業。東京大学大学院教育心理学コース修了後、文部科学省特別研究員として心理学の実証的研究を行う。日本教育心理学会から城戸奨励賞、優秀論文賞を史上最年少で受賞。現在、都内総合病院でカウンセリングを行い、慶應義塾大学では講師を務める。また、気鋭の心理学者としてフジテレビ系「ホンマでっか!?TV」でレギュラーを務め、幅広い層から支持を集めている。

勉強でもスポーツでも、どういうやり方を信じて、何をするかによって、その人の伸び方はまったく変わってきます。
Aさんはこんなやり方をするけど、Bさんはこういうやり方をする。Cさんはあんなやり方をする。人それぞれ「自分ならこうやって勉強やスポーツをするのが一番力がつく」と半ば無意識に信じているものがあります。

それは大まかにいうと、3つに分かれます。一つは努力をする量で結果が決まると考える「物量志向」。もう一つは努力する方法が大事だから、その方法を考えながらやっていくという「方略志向」。あと一つは、人は環境や条件に大きく左右されるので、なるべくいい環境に自分を置こうとする「環境志向」。ほとんどの人はこの3つのうちのどれかに固着しています。
この3つともすべてをバランスよくやっている人は、私が調べたところではじつに全体の1.9%しかいません。98.1%の人は3つのうちのどれかに固着して(あるいはどれもしないで)、それを変えることがないのです。

恋愛でいえば、「物量志向」の男性は、好きな女性にバラの花を10本贈って相手が喜ばなければ、今度は100本プレゼントしようと発想します。

「方略志向」の男性は、バラの花をプレゼントして思わしくない反応が返ってくれば、今度は相手の趣味や嗜好を分析し、花とは違う別のものをプレゼントします。つまり、うまくいかなかったら同じことを繰り返さないわけです。

「環境志向」の男性なら、花を宅配便で送って相手からいい返事がこなければ、今度プレゼントを渡す場所はおしゃれなレストランにしようと考えるかもしれません。環境が間違っていた、と考えるわけです。

さて、日本人の多くは「物量志向」です。「物量志向」かつ「方略志向」かつ「環境志向」の人間はほとんどいないわけですが、トップアスリートといわれるような人は、3つともやっていることが少なくありません。たとえば、フィギュアスケートの羽生結弦選手やメジャーリーガーのイチロー選手などは、「物量志向」「方略志向」「環境志向」のそれぞれにおいて最大限できることを実行しているように見受けられます。

彼らは練習量はいうまでもなく、練習の方法についても細かく研究しながらそのときどきに応じて最善のものを考えてやっているでしょうし、アスリートとしてより上を目指すために、海外遠征を積極的にしたり、メジャーという環境を選んだりしているのではないでしょうか。

参考記事
英語の早期教育は「考える力」を弱める