米国の住宅バブル崩壊という異なる世界での出来事が、戦後農政を支配してきた帝国の崩壊を促すかもしれない。他でもない、全農(全国農業協同組合連合会)や農林中金などが組織する農協グループ(総合農協=JA)の話である。

 周知のとおり、サブプライム問題に端を発した世界的な金融危機の深刻化はわが国有数の機関投資家であり、農協グループの信用(金融)事業の全国団体である農林中金に大打撃を与えている。11月、農林中金は、金融市場の混乱で1017億円の損失を計上、当初3500億円と見込んでいた今年3月通期の経常利益予想を71.6%減の1000億円程度に下方修正した。

 農林中金は資産の多くを有価証券などで運用しているため、保有資産の価格低下によって時価が簿価を下回る「含み損」は1兆5737億円に達している。報道によれば、損失処理などの拡大による自己資本の目減りを防ぐため、全国のJA農協グループから1兆円の出資を要請しているほどに事態は切迫しているようだ。

 筆者は、率直に言って、この農林中金の窮地がきっかけとなって、農協の瓦解もあり得ると考えている。

 零細農家を相手にする非効率な農協の農産物販売や農業資材の購入などの農業関連事業は大幅な赤字であり、農協はそれを信用事業や共済事業の黒字で穴埋めしてきた経緯がある。農林中金は有価証券の運用益を活用して、毎年3000億円もの損失補填を行ってきた。

 やや古いデータになるが、入手可能な最新の財務データとなる2002年度には、1農協当たりの経済事業等は2億8500万円の赤字だが、信用事業1億2500万円、共済事業2億8100万円の黒字で補填し、差し引き1億2100万円の利益を上げている。この方程式が崩れれば、農協システムが揺らぐことはいまでもない。

 そもそもサブプライム問題以前から、農協を支えてきた信用事業には陰りが見えていた。農協への貯金は1970年代から1990年代前半まで各年2兆円を超える増加を見せてきたが、1995年以降、2兆円に届かない状況が続いている。

 さらに、相続などによって5000億円から1兆円の預金が流出し続けている。過去、農外所得や土地の莫大な転用利益が農協に預けられてきたが、都市に住んでいる子供が相続すれば、農協預金を引き揚げて都市銀行に預金するようになるからだ。