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――「北方領土の日」の2月7日、返還要求全国大会が採択したアピール文から、例年使われてきた「北方四島が不法に占拠されている」との文言が削除されました。

「現実的な対応が浸透してきていると感じます。私は現在においても『4島一括返還』を言い続けている人たちの歴史認識に問題があると思っています。確かに旧ソ連時代にはそう主張し、4島一括返還の上に『即時』までつけていました。ですが、ロシアとの領土問題交渉の基礎となるのは、1956年の日ソ共同宣言(以後56年宣言)です。平和条約締結後に、歯舞群島と色丹島の2島を日本側に引き渡すというものです」

「ところが、その4年後の60年、日米安保条約が改定されるとソ連は反発します。すかさず、対日覚書(いわゆるグロムイコ覚書)で、『外国軍が駐留する国には領土問題は存在しない』と言ってきます。当時のグロムイコ外相が歯舞、色丹の引き渡し条件として、米軍の日本撤退を要求したのです。それで日本側も態度を硬化させて、強く出た。4島一括返還は、60年以降の“造語”なのです」

――安倍首相は1月22日、モスクワでプーチン大統領と25回目の首脳会談を行いましたが、交渉が進展しているように見えません。

「それはメディアが勉強不足だからです。昨年11月14日、シンガポールでの日ロ首脳会談で『56年宣言を基礎にして交渉を加速化する』ことで合意しています。1月の会談で、プーチン氏はその合意について『約束した』と明言しました。もう後戻りはできない。一歩も二歩も前進しているのです。その事実を、日本のメディアはしっかり捉えていません」

「56年宣言は日本の国会が批准し、当時のソ連最高会議でも批准しており、法的拘束力を持っています。日本側全権として56年宣言をまとめたのは、外交官出身で衆議院議員だった松本俊一さんです。松本さんの名著『モスクワにかける虹』を読めば、歴史的経緯がよくわかります」
※(66年に出た『モスクワにかける虹』は、『増補・日ソ国交回復秘録 北方領土交渉の真実』として朝日新聞出版より3月7日に発売予定。解説は佐藤優氏)

――ラブロフ外相は歴史認識で日本側に譲歩を迫り、「北方領土という呼び方は容認できない」などと厳しい発言が目立ちます。

「戦中、戦後の国際的な手続きに基づいて正当に領土になったというロシアの主張は正しい。カイロ宣言、ヤルタ協定、ポツダム宣言などを踏まえて、北方領土は画定されたのです。45年2月のヤルタ協定では、ルーズベルト米大統領らが、日本から千島列島と樺太南部を返還させる見返りに、ソ連に対日参戦を求めるという密約がありました。日本が無条件降伏して受諾したポツダム宣言では、第8項に『日本の主権は本州、北海道、九州、四国及びわれわれの決定する周辺小諸島に限定するものとする』と書かれています。こうした歴史を正確に認識していれば、4島一括返還を主張することはできません」