この企業は、「毎年10万円で材料を仕入れたり、労働者を雇ったりして製品を作り、19万円で売る」ということを10回繰り返すことになる。売り上げは19万円、費用は減価償却の10万円と材料費などの10万円だから決算は毎年赤字だが、キャッシュフロー(現金収支)は毎年9万円の黒字となる。減価償却は決算を悪化させるが、キャッシュフローは悪化させないからだ。

 つまり、この企業は毎年借りた材料費はきちんと返済し、その上で設備投資資金も毎年9万円ずつ返済することになる。そうなると、銀行としては100万円貸した設備資金のうち90万円は回収できることになるから、設備機械を競売にかけてしまうよりも最終的な回収額は大きくなるのだ。

ゾンビ企業の全てが
追い貸ししてもらえるわけではない

 もちろん、全てのゾンビ企業が追い貸しをしてもらえるわけではない。減価償却が小さい企業はダメだろう。設備を競売で高く処分できそうな場合もダメだ。中でも中小零細企業は、追い貸しをしてもらえる可能性が小さい。

 赤字企業に追い貸しをするのは、銀行として面倒なこと。だから、「100億円のうち90億円戻ってくる」という案件ならば追い貸しをするインセンティブは大きいが、「100万円のうち90万円戻ってくる」という案件だと、諸事情を考えて競売にかけてしまうかもしれない。

「銀行は大企業ばかり優遇する」といった声も聞かれるが、銀行には銀行なりの事情があるのだ。もちろん、大企業が倒産すると連鎖倒産なども発生しかねないので、各方面から「大企業だけは助けてほしい」という有言無言の圧力があるのも事実だ。

 そうした中で、もしもゾンビ企業を存命させる事例が増えているのであれば、「背に腹は代えられない」と考えた銀行が、手間暇をかけても中小零細企業から90万円を回収せざるを得なくなっているのかもしれない。

 本稿は以上だ。なお、銀行がゼロ金利とゼロ成長で苦しいという点に関しては拙稿「苦境の銀行が一斉に手数料を引き上げる事情」を併せてご参照いただければ幸いだ。

 ちなみに本稿は、筆者個人の意見であり、筆者が現在あるいは過去に属した団体などの見解ではないことを付け加えておく。